福島第一原発の放射能汚染問題で政府が基本方針を決定して、1カ月が経過した。政府が汚染水対策の「切り札」として320億円の建設費用を負担する「凍土方式による陸側遮水壁」の公募が10月1日締め切られた。「凍土遮水壁」は、未確立の技術で、遮断効果も疑問だとの批判が強い。事業者に有力視されている鹿島建設の資料で、汚染水漏洩の恐れがあると認めていることがわかった。
「凍土遮水壁による地下水流入抑制案 課題と対応策」と題された資料で、鹿島建設が5月16日付で作成したもの。経済産業省が2013年4月に、約20人の専門家をメンバーにして設置した汚染水処理対策委員会で、鹿島建設が提案説明した資料だ。施工後の課題として、遮水壁内への地下水流入が十分に遮断され、建屋内の滞留水(汚染水)の水位と地下水位がほぼ一致する場合、「滞留水が拡散で建屋外に漏洩する恐れは否定できない」と明記している。「滞留水が拡散で建屋外に漏洩」の部分を赤字で強調する念の入れようである。全18ページの資料で、見出しや図中の説明を除けば、赤字で記されているのは、この部分のほかは1カ所しかない。
凍土遮水壁というのは、地中に杭(凍結管)を打ち込み、そこから特殊な冷却剤をしみ出させて、地中の水分を凍らせて氷の壁をつくる特殊工法で、氷の壁で水を遮断する。1~4号機の原子炉建屋周辺を凍土壁で囲い込み、地下水が建屋内に流入しないようにする作戦だ。総延長約1,400m、凍土の量は約7万m3におよぶ大規模なものになる。トンネル工事などで周辺に地下水が流出している場合、地下水を遮断するのに使われる工法だが、凍土壁で大規模に取り囲み、10年間におよぶ長期間にわたって運用した実績がない。技術そのものが未確立で、汚染水を漏洩させないために地下水位を管理する対策も不可欠とされている。
凍土遮水壁を適切と判断した汚染水処理対策委員会が5月にまとめた抜本対策でも、「適切な地下水位の管理を行なわなければ、建屋内の汚染水位との差が縮まっていくことで、建屋内の汚染水の外部への流出リスクが高まることとなる。そのため、地下水および汚染水の水位管理が必要不可欠」と指摘されていた。「世界に例のない初めての取り組み」だとして、具体的な実現方法の引き続きの検討を求めていた。事業を公募した経産省自身が「技術的要件」として、それらの技術の確立を挙げているのが実態で、凍土遮水壁が仮に設置されても、汚染水が漏洩しない保証はない。
経済産業省原発事故収束対応室は、NET-IBの取材に対し、建屋の滞留水(汚染水)の建屋外への漏洩について「今後検討するポイントだと言える」と述べ、長期的検討課題であることを認めた。「陸側遮水壁タスクフォースで検討していく」としている。同タスクフォースは非公開で不定期開催、すでに複数回開催されている。
遮水壁について、凍土方式を適切と判断した汚染水処理対策委員会も非公開、議事録も概要しか公表されていない。同委員会では、鹿島建設のほか、大成建設、清水建設が別方式を提案していた。
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