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芸能生活60周年、浜木綿子が魅せる新版『人生はガタゴト列車に乗って・・・・・・』
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2013年10月 9日 10:10

 (株)博多座(福岡市博多区、芦塚日出美社長)は10月4日から10日まで、浜木綿子芸能生活10周年記念公演「人生はガタゴト列車に乗って・・・・・・」を公演中。作家の故・井上ひさし氏の実母で、戦後の東北を逞しく、そして明るく生きた女性、故・井上マスの半生を、芸能生活60周年を抑えた浜木綿子氏(以下、浜氏)が、「抑えた」演技で見事に演じている。

<喜劇に必要なのは引き算のさじ加減>
 8月に会見したとき、浜氏は「実在の人物を演じるのは難しい」と語った。何度もマス氏本人と会って、声や仕草、服装の好みなどを把握しながら丁寧な役作りを行なってきた。しかし、真実に迫るにはどうしても限界がある。「ご本人の心境に同化できればいいのですが、それは無理ですよね」と浜氏。「マスさんは、生きることにとてもエネルギッシュな女性。演じるのも、私が若い頃は良かったけれど、今はついていくのが大変」と笑っていた。
 女優・浜木綿子も明るくエネルギッシュな女性という意味では演じやすいのでは、と疑問をぶつけたところ、「私は声が大きいから元気に思えるのでしょうね」とのこと。自分では決してエネルギッシュなタイプだと思っていないことを、うかがわせる様子だった。
 そんな浜氏が、「マスさんのような強い女性は『静』をもって演じたい」と語った。そして、喜劇というジャンルについても、「喜劇は出過ぎると厳しい。昔は『笑ってもらうためにはどのように演じたらよいか』を考えたものだったが、今はお客さまに芝居に入ってきていただくためにも、出過ぎず、役者が作るのは60~70%で、後はお客さまに補っていただく、という気持ちで演じています」とも語った。
 その演技、見てみたい、と思った。

<演技の余白に観客が入り込む>
gatagoto.jpg 観劇した6日は日曜日ということもあり、なかなかの盛況だった。幕が上がり、浜氏演じる井上マスが登場。小姑からの嫌がらせもふんわりとした穏やかな応対で受け流す。啖呵を切るときはしっかりと切るが、それがまた可愛らしい。第2部では、人生経験を積んだマスが逞しく成長しているのが感じられた。しかしやはり第1部同様、マス一人が溌剌とがんばる舞台ではない。それでいて観ていて元気をもらえるのは、浜氏が残した舞台の余白に観客の方から入り込んでいけたからなのだろう。この微妙なさじ加減に「女優・浜木綿子が60年間の芸能生活で培った、不思議な何か」があるのだろうと思った。

 余白に入り込むのは観客だけではない。他の役者もその余白にうまく入り込み、「井上マスに惹かれて幸せになっていく人々」に成り切っていた。新版ということで、キャストも変わり、浜氏が長年信頼していて「今までツーカーの仲だった」左とん平に代わって加藤茶が舞台に上がった。さすがに左氏と同じような阿吽の呼吸とまではいかないだろうが、浜氏が加藤氏を引っ張って新しい関係性を築きつつある感があり、この舞台は、浜氏が牽引するひとつの船のようなものかもしれないと思った。

 往々にして博多座では、華やかな舞台が人気を博す傾向がある。浜氏に「文学的な演目で、博多座に人を集めたいですね」と言うと、「じゃあ、がんばらなくっちゃね」と笑った。そのためには、いかにして観客と一体化できる舞台を作るべきか。ひとつの手本を示してもらえたような気がする。

【黒岩 理恵子】


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