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安倍政権TPP公約破棄なら倒閣運動に正統性~植草一秀氏
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2013年10月 9日 15:26

 NET-IBでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事から一部を抜粋して紹介する。今回は、自民党が12月の総選挙で主権者国民に提示した6つの公約を示し、国民は、これらの遵守を厳しく安倍政権に求めるべきだと主張する10月7日のブログを紹介する。


 インドネシアのバリ島でAPEC首脳会議が開かれる。
 米国のオバマ大統領はこの首脳会議に出席して、TPP交渉の大筋合意を演出する予定だったが、米国の政府閉鎖・債務上限引上げ問題が難航し、外交日程をキャンセルした。最重要の国際会議をドタキャンするわけで、米国の指導力低下、米国の威信低下は免れない。
 今回のAPEC首脳会議はインドネシアで開催されるが、当のインドネシアはTPPに参加しない。アジア諸国では、韓国、中国、インドネシア、インドなどがTPPには不参加の意向を示しており、そのインドネシアで開催されるAPEC総会で米国がTPP交渉の大筋合意を発表しようというのも、不可思議な話である。
 日本はアジアの一国であるのだから、アジアを基軸に外交および貿易自由化交渉に臨むべきである。アジアを中心とした貿易自由化を考える枠組みを表わす言葉に、ASEAN+3、ASEAN+6などの言葉がある。3とは日本、中国、韓国のことだ。6とは、これにインド、ニュージーランド、オーストラリアを加えたものだ。ASEAN+6の枠組みで検討されている広域的な包括的経済連携構想がRCEP=Regional Comprehensive Economic Partnershipである。

 RCEPは2011年11月にASEANが提唱し、その後16カ国による議論を経て、2012年12月のASEAN関連首脳会合において正式に交渉が立上げられたものである。RCEPが実現すれば、人口約34億人(世界の約半分)、GDP約20兆ドル(世界全体の約3割)、貿易総額10兆ドル(世界全体の約3割)を占める広域経済圏が出現する。
 2012年11月にはASEAN関連首脳会合において、RCEP交渉開始式典が開催され、16カ国の首脳が「RCEP交渉の基本指針及び目的」を承認し、RCEP交渉立上げを宣言した。これを受けて2013年5月には、ブルネイでRCEP交渉第1回会合が開催された。
 TPPとRCEPの最大の相違は、米国を基軸にするものであるのかどうかという点である。米国を含めたより広範な自由貿易圏を構築するものとしては、アジア太平洋自由貿易圏(Free Trade Area of the Asia-Pacific =FTAAP)構想がある。アジア太平洋地域において、関税や貿易制限的な措置を取り除くことにより、モノやサービスの自由な貿易や、幅広い分野での経済上の連携の強化を目指すものである。2010年に横浜で開催されたAPEC首脳会議において、FTAAP実現に向けた道筋が策定された。
 TPPは、米国の米国による米国のための枠組みである。米国は、これから世界の成長センターになるアジアの果実を獲得するために、米国を主軸とする経済連携、自由貿易の枠組みを構築しようとしている。TPPに日本が参加しなければ、TPPはアジアに食い込む強力な武器にはならない。アジア諸国が米国を除外した自由貿易・経済連携の枠組みを構築すれば、米国はアジアの果実を取り損なうことになる可能性が高い。
 そこで、米国はシンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイが始めたTPPに参画し、ここに日本などを引き込む策略を構築したのである。
 日本がアジアの一国であることを忘れて、米国の僕として米国に隷従してTPPに参加する必然性はまったく存在しない。
 なぜなら、TPPは日本経済と日本国民に有害無益な枠組みであるからだ。
工業製品において世界の関税率はすでに十分に低い。工業製品の関税が撤廃されても、日本経済が得るメリットは限定的である。他方、一部の農産物等には、日本の国益を守るために、高率関税が維持されている。さまざまな理由から関税を維持することが必要とされて、これが維持されている。

 しかし、だからと言って日本の市場が閉鎖的であるというわけではない。全品目の関税率、農産品の関税率において、日本の市場は十分に開かれている。一部産品について高率関税が残されているからと言って、日本の市場が閉鎖的であることにはならない。全体とし日本の市場は十分に開放的であると言って差し支えない。

 TPPの害悪は、別のところにある。
 TPPは単に関税を撤廃しようとするだけの経済連携ではなく、各国の制度、規制を強制的に変更させる取り決めであり、しかも、TPPにISDS条項が盛り込まれると、国家主権の上にTPPが位置するという、許されざる本末転倒をもたらすものなのである。
 日本の諸制度が強制的に破壊されることになる危険が限りなく大きいのである。

 安倍晋三氏は2012年12月の総選挙で、「TPP断固反対」のポスターを掲げて戦った。このとき、国民に対して、6つのことがらを約束した。政治の基本は国民との約束を守る点にある。安倍自民党は選挙公約に完全なる責任を持たねばならない。

 安倍自民党が国民に約束した6つの事項とは、

1.例外5品目の関税を維持する
2.数値目標を受け入れない
3.食の安心・安全を守る
4.国民皆保険制度を維持する
5.政府調達・金融サービスで国の特性を尊重する
6.ISDS条項を受け入れない

 である。

 この6項目の公約順守を厳しく安倍政権に求めなければならない。

 ところが、日本政府の対応が疑わしくなっている。自民党の西川公也環太平洋連携協定(TPP)対策委員長は10月6日、TPP交渉が開かれているバリ島で記者団に対し、「聖域」として関税維持を求めてきたコメなど農産物の重要五品目について、関税撤廃できるかどうかを党内で検討することを明らかにした。 
 つまり、例外5品目の関税を維持するとの公約を破棄する可能性を示唆し始めたのだ。
 安倍首相はこの問題について、ペテン師まがいの言動を繰り返してきた。
 「聖域なき関税撤廃を前提とする限りTPP交渉には参加しない」
 としてきたことを強調し、
 「関税撤廃が前提とされなければ、TPP交渉には参加できる」
 としてきたのだ。

 安倍氏の発言の意味は、
 「関税撤廃が前提となっていなければ、結果として関税撤廃になっても許される」
 という解釈だ。
 これは、単なる「言葉遊び」に過ぎない。
 選挙の際に、自民党は、「コメ、小麦、牛肉、乳製品、砂糖の5品目については、関税撤廃の例外とする」ことを訴えてきたのである。
 細かな言葉の綾で国民を騙そうとする姿勢が誠実でない。
 そして、安倍自民党が約束したのは、5品目の関税問題だけについてではない。
 上記の6項目のすべてを公約として提示して総選挙を戦ったのである。

 選挙の際に提示した公約に対する無責任な対応が、主権者国民からどのように断罪されるのかは、菅民主党、野田民主党の実例が如実に示している。
 民主党は2010年参院選、2012年総選挙、2013年参院選の3回の国政選挙で、三連続大惨敗を演じた。
 その主因は、主権者国民に対して、「シロアリ退治なき消費税増税反対」の明確な公約を示したにも関わらず、この公約を踏みにじって「シロアリ退治なき消費税増税」に突き進んだことにある。
 安倍自民党はこのことを肝に銘ずるべきである。自民党はTPPについて、6項目の公約を示した。この公約を順守することが絶対に必要だ。
 ところが、現実には、この6項目の約束が、すべて大ウソであったのではないかと疑わせる現実が浮上している。

 日米事前協議では、米国製自動車の輸入台数を2倍に増加させるという「数値目標」が設定された。かんぽ生命やゆうちょ銀行などの金融機関は、日本固有の歴史と伝統を引き継いでおり、政府調達・金融サービスにおいて、各国の特性を踏まえることと密接に絡む。
 この点に関して、日本政府はかんぽ生命に新商品を認可しないことを約束し、また、日本郵政は米国のアフラック生命保険会社に対して、ゆうちょ銀行窓口をアフラック保険商品販売の窓口として提供することを発表した。
 遺伝子組み換え食品の表示義務が緩和されることは、食の安心・安全を損なうことを意味する。
 これ以外にも、残留農薬、排ガス規制、などさまざまな規制がTPPによって緩和されることがないかどうか、厳しい監視が必要である。

 最大の問題はISDS条項がTPPに盛り込まれるかどうかだ。安倍自民党はISDS条項を受け入れないことを国民に公約として提示している。公約として提示した以上、これは絶対に守らせなければならない。
 国民皆保険制度が曲者である。

 国民皆保険制度が名称として残存されても、その内容が改変されれば意味がないからだ。
 現在の国民皆保険制度では、いつでもだれでもどこでも、十分な医療を受けることができる。この「十分な」の部分が破壊されれば、実質的に「国民皆保険制度」は破壊されたということになる。
 日本のTPP参加は、医療における保険外診療の拡大をもたらす可能性を高めると見られる。保険外診療の拡大は、すなわち、日本の医療制度における貧富の格差容認を意味する。こんな重大なことがらが、なし崩しで推進されることは絶対に許されない。

 そして、もうひとつの最重要テーマが農産品の関税問題だ。コメ、小麦、牛肉、乳製品、砂糖の5品目については、国内産業への影響を考慮して高率関税が設定されている。
 それは単に、農家を守るためだけではない。日本のコメ農業、小麦農業、牛肉生産、酪農、サトウキビ栽培を守ることが、国民の視点から見て重要であるから、これらの制度が残されている。
 人間の生存に食料は不可欠である。また、人間の生存にとって、自然環境の保全も必要である。また、北海道の酪農、沖縄のサトウキビなどは、地域経済を守る視点からも重要視されている。日本がTPPに参加して、農業の自由化が進展すればどのような事態が発生するか。重大な変化が急激に進行することは間違いない。
 日本のコメ生産は壊滅的な打撃を受けるだろう。一部のブランド米生産と、一部の大規模化された稲作は残存するだろうが、大半の米生産は消滅する。残存するコメ生産は外国資本に支配され、食糧危機が発生する場合には、日本国民には供給されない事態が生じるだろう。
 
 残存する農耕地では外国資本による大規模な商業作物生産が行われ、その多くが輸出品目となり、日本の食糧自給体制はさらに脆弱なものになる。しかも、土地の養分は収奪され、遺伝子組み換えの種子だけが利用され、大規模な農薬散布も広がると思われる。

 効率の悪い中山間地の農耕地は耕作放棄地となり、国土全体の荒れ地化、疲弊が急速に進展することになると思われる。また、農村を軸に培われてきた共同体文化が破壊され、日本の古き伝統、文化、習俗が消滅することになるに違いない。

 この変化が日本国民にプラスであるとはおよそ考えられない。金銭、効率、利益だけが世の中を支配する社会。これが「強欲資本主義社会」である。この流れを是認するのか、それとも、ストップさせるのか。日本国民はこの問題を真剣に考えなければならない。

 その前に、まず、自民党は主権者国民に提示した公約の順守を考えるべきだ。公約を踏みにじって安倍政権が暴走しようとするなら、主権者国民は力づくで、この暴挙を防がねばならない。国会議席の多数を確保すれば、何をやっても許されるというものではない。
 選挙に際して公約を提示し、その公約を踏まえて主権者が投票行動に臨んだことを踏まえれば、政権政党は、公約を確実に順守する責務を負っている。
 このことを忘れるなら、主権者国民によって厳しく断罪されることを忘れてはならない。

※続きは、メルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』(有料)」第685号「安倍政権TPP公約破棄なら倒閣運動に正統性」にて。


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