「すでに命運も尽きたか。もう橋下徹大阪市長も終わりだな」
そういう声が聞こえ始めた。タレント弁護士から出発して、大阪維新の会を設立。府知事から市長に転出した橋下氏は、大阪に君臨する専制君主だった。
「大阪は橋下王国だ」
そんな声も、すでに過去のものになろうとしている。9月29日に行なわれた堺市長選で、橋下氏が率いる大阪維新の会は前堺市議の西林克敏氏を擁立したものの、現職の竹山修身市長に惨敗した。勝たなければならない勝負に負けた痛手は大きい。
どうして橋下氏は負けたのか。いろいろな原因が囁かれている。
「慰安婦・風俗発言がきっかけだ」
「読売テレビの清水健アナウンサーに出馬を断られたことからケチがついた」
「選対にまったくやる気が見えなかった」
「ツイッター事件が足をひっぱった」
ツイッター事件とは、台風18号が近畿圏を直撃した9月16日、橋下氏が自宅でツイッターにて竹山氏への批判を繰り返したことだ。この時、大阪市と堺市の境界を流れる大和川は「氾濫危険水位」と突破し、橋下氏は13万1,000世帯に避難勧告を出している。
一方で竹山氏は豪雨のなか、市長として現場を視察していた。そんな竹山氏に橋下氏は「単なるパーフォーマンス」、「素人の市長がわかるはずがない」とツイッターで攻撃した。これについてフォロアーがとがめると、「だったら、フォローを外してくれてけっこう」と開き直った。その様子にげんなりした人は多かった。
だが選対に入った日本維新の会の関係者は、もっと大きな原因が他にあるのだという。
「途中で橋下共同代表が勝手に公約を変えてしまった。あれは痛かった。有権者の反応も悪くなり、我々は一気にやる気がうせた」
「公約を変えた」というのは、投票日が迫った25日に橋下氏が、「大阪都構想は住民投票で決める」と発言した件だ。
「それなら竹山氏の主張と変わらない。いったい何のために独自候補をたてたのか」(同前)
さらに戦略の弱さが目立った。
「竹山陣営は『大阪都構想で堺市が消える』と、短くも明確なフレーズで有権者に訴えた。それに対し、大阪維新の会は有権者に訴えるパワーが不足した。橋下氏が街宣に来ても、これまでのような歓声はなかった。政策を問う厳しい質問ばかりが出てきた」
このような逆風は、橋下氏は予想だにしなかったに違いない。すでに「大阪維新の会は終わりだ」と諦めの境地に入った関係者もいる。
永田町にもその影響は出始めている。政党ブロック制を提唱し、政界再編を企む渡辺喜美みんなの党代表は、「ころころ公約を変える政治家はダメ」と橋下氏を暗示して切り捨てた。
大阪維新の会の地位が急速に低下しているのだ。
日本維新の会の関係者はこう述べる。
「大阪の地域政党である大阪維新の会はダメになってしまった。しかし国政の日本維新の会はまだまだ大丈夫だ。平沼赳夫氏もいるし、片山虎之助氏もいる。民主党でも自民党でもいろいろなところにウイングを広げることができる園田博之氏もいる。彼らは大阪維新の会の不調とは無関係だ」
しかし平沼氏や片山氏では高齢と右傾化した思想で「党の顔」になりにくい。
「平沼氏も片山氏も手をあげないだろう。あえて挙げそうなのは、藤井孝男氏か。部会でも目立とうと発言するシーンが多い。生臭さがいっぱいだ」
藤井氏はかつて、「平成研のプリンス」と謳われた。故小渕恵三首相の後、鈴木宗男氏や額賀福志郎氏とともに「総裁候補」と目されていた。しかも今上天皇陛下が皇太子時代に、テニスの試合をした仲間だ。毛並みのよさは申し分ない。
彼ら「太陽党」出身議員たちは、日本維新の会で「太陽系」と呼ばれている。太陽系が日本維新の会でどのように存在感を増していくのか、これから注目に値する。
いっぽうで国会議員団幹事長の松野頼久氏も活発に動いている。民主党出身の松野氏は、細野豪志前民主党幹事長や江田憲司前みんなの党幹事長と会合を重ね、野党再編を目指して活動している。
さらにDRYの会を結成し、勢力拡大を図っている。すきあらば民主党、日本維新の会そしてみんなの党に所属の有志議員らと新党を結成するつもりでもある。
ただしその「チャンス」はなかなかめぐってこないだろう。昨年12月の衆院選に続き、今年7月の参院選で自民党が大勝したため、そう簡単に解散される見込みはない。「次の選挙は3年後」というのは、ほぼ確定した事実になっている。選挙がなければ大きく動かないというのが永田町の常識だ。
10月9日午後9時半。都内のホテルに松野氏、細野氏、江田氏とDRYの会の役員が集まった。出席者のひとりである民主党の笠浩衆院議員は「野党の連携をしっかりしなければいけないという共通認識のもとに、意見を交換した」と記者に説明した。具体的な新党構想は否定されたが、遠い将来の絵としての可能性は残されている。
その頃には大阪維新の会はいまのかたちをなくし、そのDNAだけを新党に残していくだろうと思われる。
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