<研究と経営はマインドが180度違う>
―― 一般的には有機栽培農法と経営との両立はとても難しいと言われています。
杜博士 それは我々も同様です。しかし、私の場合は最初から「有機栽培と経営との両立」が与えられたミッションでした。私は「研究と経営はマインドが180度違う。研究はリスクより成果を重んじがちであるが、できるモノ、売れるモノしか作らないのが経営」と認識しています。
栽培時期(旬)、品種、そして鮮度が野菜の味を決める3大要素と言われています。ユニオンファームでは"適期適作"が原則です。植物生理に逆らい無理な栽培をしてコストをかけるより、できるだけ植物の自然生育に任せ、より高密度、高回転で土地を活かした方が利益に繋がります。また、アイテム数を多くしているのは、営業戦略の為だけでなく、それらを輪作させ、連作障害を抑制する目的もあります。同じ科の野菜を続けないことで、病害虫の繁殖を防ぐことが可能になります。
<農学部を出て、商社や金融業を志望?>
――フランチャイズ制というユニークなビジネスモデルを実践されています。
杜博士 今日本の農業に足りないのは若い人材です。驚いたのは、日本では農学部を出た若い優秀な人材の多くが商社や銀行・証券の金融業を志すと聞いた時です。そのようなことは、中国ではありませんし、アメリカでもないと思います。農学の修士号、博士号を持つ農業従事者も驚くほど少ないです。現在農業に従事されている方の年齢も高すぎます。
そこで、有機栽培技術が確立し、販路の開拓・拡大によってビジネスが軌道に乗り始めた2003年の秋から、ユニオンファームでは、それまで蓄積した栽培ノウハウをマニュアル化し、そのマニュアルをもとに新規就農者への育成事業を始めました。この事業も玉造社長が最初から描いていたものです。就農希望者に2年間の研修を施し、終了後にはユニオンファームのフランチャイズの農場(フランチャイザー)として独立してもらいます。研修プログラムは講義と栽培実習で構成、研修期間中の研修生には見習い従業員扱いで給与(生活費)が支給されます。
<農業で生計を立てると言う覚悟が必要>
―― 選抜試験(面接)はかなり厳しいのですか。
杜博士 日本では2009年頃に一時的に、農業ブームが訪れ、今は一段落しています。ただし、潜在的に農業をやってみたい若い方は、以前と比べて増えている気がします。
農業というのは、自然の摂理に従って仕事をしていくものです。それだけに、厳しい面があります。「農業をやりたい」ではなく、「農業で生計を立てる」という覚悟が必要なのです。私は「土や植物が好きかどうか」もお聞きしています。土を踏みしめ、畑の中を歩き、植物を見て元気になれるかどうかです。私は元気になります。
2年間の研修を受けて独立された方でお辞めになった方はいません。間もなく10名になります。もちろん、独立された後も、本部では生産計画、栽培技術、物流など様々な指導を続けていきます。将来的には、さらにマニュアル化の精度をあげ、仲間を増やしていきたいと思っております。
――本日はありがとうございました。
【後記】
2012年度から「青年就農給付金制度」ができた。これは就農予定時の年齢が45歳未満の新規就農希望者に年150万円支給するもので、最大7年間支給される。しかし、先に解決すべき根本的な問題「土地利用規制の改善」、「農家の既得権の見直し」等は棚上げされたままだ。新規に参入する人間の前に人参だけをぶら下げるのは如何なものかと批判が多い。現に、最近農業を相談に来る人のなかには、経験、見通しもなく、給付金目当てが増えていると聞く。
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<プロフィール>
杜建明(と けんめい) 農学博士
江蘇省宜興市出身。南京農業大学を卒業後、1986年にイタリアのボローニャ大学に留学。帰国後、南京農業大学で講師を務めた後、94年に来日、筑波大学で農学博士号を取得。98年にアイアグリ(株)農業技術チーム主任研究員。2004年に(有)ユニオンファーム取締役総農場長。趣味のコントラクトブリッジでは、2度の「茨城県知事杯」優勝経験がある。
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