12月にアゼルバイジャンのバグーで開催される第8回世界無形文化遺産委員会において、「和食:日本人の伝統的な食文化」がユネスコ世界無形文化遺産に登録決定しそうだ。決定すれば6月の「富士山世界文化遺産」に続く快挙になる。
この一環として、京都府や農林水産省でつくる「日本料理文化博覧会実行委員会」が主催するフォーラム「和食の未来に向けて」が10日、東京都内のホテルで開催された。会場には北は青森、南は長崎まで約530人が参集した。
ファシリテーターに筒井紘一氏(裏千家 今日庵文庫長)、パネリストに村田吉弘氏(菊乃井 主人)、徳岡邦夫氏(京都吉兆 若主人)、高橋拓児氏(木乃婦 若主人)という豪華メンバーで、日本料理が世界で注目される理由や、次世代への継承について語りあった。
<一流シェフが注目する"うま味">
うま味は、2000年に舌の味蕾にある感覚細胞にグルタミン酸受容体が発見された、甘味・酸味・塩味・苦味(4基本味)に続く第5の味である。グルタミン酸(昆布)、イノシン酸(かつお)、グアニル酸(シイタケ)、コハク酸(貝)がよく知られている。今ではその受容体は胃の中にもあることがわかっている。
村田氏は「欧米料理の多くは脂質などで構成されていますが、日本料理はダシのうま味で構成する世界唯一の料理です」といい「今、世界各国の若手トップシェフの間ではこの"うま味を理解し、コントロールする"ことが料理の基本とまで言われています」と付け加えた。モスクワでは最近、喫茶店、中華料理店のメニューにも「鮨」が入っているらしい。
<"地産外消"の姿勢が重要である>
徳岡氏は「素材を大事にして作り上げるのが日本料理。健康によく、美容にもよい。ところが日本の若い人はその尊さを忘れてしまっている。我々はもっとアピールし、教育していくことが必要。地産地消ではなく"地産外消"を心がけ、日本全国、世界の役に立つ"食"として発信していきたい」と語った。経済波及効果を意識されていた。
<経験だけでなく、科学的分析も必要>
高橋氏は現在、京都大学大学院農学研究科で日本料理を科学的に研究している。「同じ魚をおろす場合でも、関東と関西は違うし、日本と海外とでも軟水、硬水など水の違いで味が変わる。経験値に加えて、科学的な分析・知識も必要」と語った。勉強を惜しむと、状況にあった美味しいものは作れないということである。
<守るのではなく、進化することが大事>
記者が意外だったのは、筒井氏から「先祖代々の秘伝のようなもの、守らなければならないことは何かありますか」という質問の答えだった。村田氏は即答で「何もありません」と一言。徳岡氏も高橋氏も、それに基本的に同意していた。
「料理屋なので"お客様に喜んでもらう"というベースがしっかりしていなければ存在意義がありません。何かを継承していくことはとても大事な事です。しかし、現実的に"ダシの引き方"一つにしても、時代によって変化して行く必要があります」は3人の共通意見である。
村田氏は官邸晩餐会などの例を引き「ベジタリアンの方、小麦アレルギーの方、糖質制限の方、ハラール食の方まで、きめ細かく対応していく必要があります」と結んだ。頑固に「これがうちの味です!」というのは一昔前の話らしい。
フォーラム終了後は「賞味会」が開かれた。京都の料理屋を中心とした若主人でつくる「京都料理芽生会」の20店舗の若主人たちが、限定350名に向け特別献立の懐石料理を提供した。
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