福岡猟友会で活動してきたベテラン猟師の村上雅昭氏と九州大学の研究者の丸居篤准教授が、スマートフォンの遠隔操作で扉を閉め、野生動物を効果的に捕獲する箱わなのシステム(ソフト面)を4年がかりで開発した。この新型の箱わな開発のハード面に協力した福岡金網工業(株)の若宮工場長の高取修氏、それを支持した同社代表取締役の山本健重氏、そして発案者である村上氏に、この商品についての可能性を聞いた。
農作物を食い荒らす野生鳥獣による被害額は、2011年度で約226億円に上る。そのうち、九州におけるイノシシなどによる農作物の被害額は約19億円と決して少なくない。
そんな現状を打破するために開発された、遠隔操作で野生動物を傷つけることなく捕獲できる新型箱わな・野生動物保護捕獲システム「プロテクション・キャッチャー」が、実用に向けて製品化を急いでいる。
「プロテクション・キャッチャー」は、イノシシがわなに入るとセンサーが感知し、登録しているスマホにメールで知らせる。また、スマホではわな上部に設置されたカメラの映像を受信し、内部の様子をリアルタイムで把握することができる。
従来の箱わなだと、侵入した動物が踏み板を踏むと侵入口の扉が落ち、扉には返しが付いていて中からは開けることはできないものが一般的だ。それゆえ、仮に子どもなどが間違って入った場合にも作動してしまうことがある。
しかし、「プロテクション・キャッチャー」では、箱わな設置者がタイミングをリアルタイムで確認しながら作動できるため、そういったケースもなくなる。また、野生動物が複数匹入ったのを見計らって一網打尽にすることも可能だ。現地までの移動に時間がかかる山奥に設置しても、別の場所から安全に捕獲できるうえ、野生動物にケガを負わせることもない。
村上氏は、「これまで、野生動物の多くは箱わなにかかると暴れてケガを負ったり、閉じ込める際に板が挟まって、そのケガがもとで死んだりしてしまいます。そういったことをなくすため、本製品の発案に至りました」と語る。
現在も改良中のこの「プロテクション・キャッチャー」だが、製品化に行き着くまでには、さまざまな苦難があった。まず、野生動物が警戒しないよう、自然に非常に近い状態で設置しなければならない。「檻という観念を外してつくっていくのが基本姿勢です。檻のなかに入ってくるのは100頭中1頭くらいで、ほかは警戒して寄り付くこともしません。そのくらい近年のイノシシは学習しているのです。くくりわなにしても、においで嗅ぎ取ってしまうくらいです。そのくらいイノシシの嗅覚はすごいんです。檻に塗装をしてしまうと、においが取れるまで絶対に寄り付きません。だから檻をつくる金網にはこだわるわけです。金網の価格、強度、技術などが必要不可欠です。檻の良さと高取工場長を筆頭とした福岡金網工業さんの社員努力がなければ、この商品はここまでの仕上がりにならなかったでしょう」(村上氏)。
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■製品概要
野生動物保護捕獲システム
「プロテクション・キャッチャー」
高さ:150cm(240cmセンサー部含む)
幅:150cm
奥行き:200cm
重量:130kg
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