北京は中国の「首都」であるが、北京の「食」は決して豊富とは言えない。東北地方は小麦粉を使った麺が主食で、風味豊かな広東料理、辛さ抜群の四川料理などと比べて「北京料理」はさほどの特徴がないと言われる。現在、台湾から進出してきた料理チェーン店なども多く進出し、北京市民の台所は「北京料理」以外に奪われつつある。
そんな特徴少ない北京料理のなかで、誰もが一番に挙げるのは「北京ダック」だ。北京ダックは中国大陸のみならず、世界各地の華僑が住む地域(チャイナタウン)に持ち込まれている。日本の横浜や神戸の中華料理店でも、値段は非常に高いものの、食べることができる。
中国原産の北京種と呼ばれる卵肉兼用のアヒルを焼いて食べる「北京ダック」。生後50日前後のアヒルにタンパク質豊富な練り餌を1日2回~4回、機械で胃の中へ押し込む強制給餌を行なう。特別に肥育したアヒルの内蔵を抜いて、空気を膨らませたものに、飴を全体に塗り乾かす。これをかまどのなかにつるしナツメやアンズの薪で焼く。途中でしたたり落ちる油に調味料を加えたものを何度も表面に塗る。丸焼きにされたアヒルは、皮を削いで薄餅(小麦粉を練った生地を薄く伸ばして焼いたもの)に取り、甜麺醤、ねぎ、きゅうりの千切りとともに巻いて食べる。
焼き方は主に2種類ある。オーブン式の扉付きの炉で蒸し焼きにする製法と、扉無しの炉で、直火で炙る方法だ。日本では主に前者が採用されているが、北京の専門店には後者が多い。後者の方が「専門性」が高く、日本ではわざわざその手法を採用しないからだという。
北京の人気店「地球村」(北京市西城区外文翻訳局西)にも、後者の炉、食堂と隣接した場所に「かまど」が置かれている。アヒルが猛烈な火で炙られている光景は本場に来た雰囲気を醸し出し、さらに食欲をそそる。肉はあまり食べず、皮を主に食べるのが「北京式」だ。皮と野菜をひたすら薄餅に巻き、食べる。日本では一人当たり3,000円以上はしそうな北京ダックだが、北京に行けば、一人頭で50元(約800円)くらいから食べられる。
ただし、注意しないといけないのは、レストランのなかが清潔とは言えないことだ。昔は痰壷(たんつぼ)が用意され吐かれていた。最近は「不衛生」だと撤去されたが、老人などは昔の習慣が残り、痰壷がない状態でも店の床に吐いている。トイレは、扉を閉めずに客が用を足す。食事の話題にふさわしくない話だが、その予備知識無しに「北京ダック」店は語れない。大気汚染の問題で、世界中から「汚名」という注目を集める北京。空気も含め、北京に「クリーンさ」を求めるのは不可能に近い。
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