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やなせたかし・宮崎駿・半沢直樹~植草秀一氏ブログ
社会
2013年10月18日 11:43

 NET-IBでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事から一部を抜粋して紹介する。今回は、先日亡くなった詩人のやなせたかし氏が代表的アニメ作品「アンパンマン」で主張し続けてきたシンプルな正義観を始め、映画監督・宮崎駿氏やTVドラマ「半沢直樹」のヒット現象が示すものから安倍政権が何を学ぶべきかを指摘した、10月16日付の記事を紹介する。


 やなせたかしさんが亡くなられた。94歳だった。亡くなられる直前まで、精力的に活動を続けられた。アンパンマンでおなじみの高名な漫画家だが、漫画でのヒットは70歳になられたころなのだそうである。
 10月下旬に発売されるやなせたかしさん責任編集の季刊誌『詩とファンタジー』24号には、やなせさんの『天命』と題する詩が掲載される。

『天命』

見おぼえのある
絶壁の岸
ここまで何度か
追いつめられ
助からないと思ったが
奇跡的に
九死に一生
なんとか
生きのびてきた
生きとしいけるものには
天命がある
もはや
無駄な抵抗はせぬ
ゼロの世界へ
消えていくでござる
拙者覚悟は
できているから
あせらず
しばらく
お待ちくだされ


 やなせさんは巻頭用に「もうおしまいです」と"遺言"を書き、死をテーマにした詩とイラストの二つの作品を完成させ、入院中だった9月上旬に編集者に原稿を渡していたという。

 巻頭の編集前詩には

「死ぬ時も
未熟のままで
かえって
よかったような
気もします」

 と記していた。

 「終活」という言葉が流行しているが、引き際も鮮やかだった。

 子どもに大人気のやなせさんのアニメ「アンパンマン」のテーマソング「アンパンマンのマーチ」もやなせさんの作詞によるものだ。

そうだ うれしいんだ  生きるよろこび
たとえ 胸の傷がいたんでも

なんのために生まれて なにをして生きるのか
こたえられないなんて そんなのはいやだ!

今を生きることで 熱いこころ燃える
だから君はいくんだほほえんで

そうだ うれしいんだ 生きるよろこび
たとえ 胸の傷がいたんでも
ああ アンパンマン やさしい君は
いけ! みんなの夢まもるため

なにが君のしあわせ なにをしてよろこぶ
わからないままおわる そんなのはいやだ!

忘れないで夢を こぼさないで涙
だから君はとぶんだどこまでも

そうだ おそれないで みんなのために
愛と勇気だけがともだちさ
ああ アンパンマンやさしい君は
いけ! みんなの夢まもるため

時ははやくすぎる 光る星は消える
だから君はいくんだほほえんで

そうだ うれしいんだ生きるよろこび
たとえ どんな敵があいてでも
ああ アンパンマンやさしい君は
いけ! みんなの夢まもるため


 やなせさんはノンフィクションライター神田憲行氏のインタビューにこう答えている。

 「『アンパンマン』を創作する際の僕の強い動機が、『正義とはなにか』ということです。
 正義とは実は簡単なことなのです。
 困っている人を助けること。ひもじい思いをしている人に、パンの一切れを差し出す行為を『正義』と呼ぶのです。
 なにも相手の国にミサイルを撃ち込んだり、国家を転覆させようと大きなことを企てる必要はありません。
 アメリカにはアメリカの"正義"があり、フセインにはフセインの"正義"がある。アラブにも、イスラエルにもお互いの"正義"がある。つまりこれらの"正義"は立場によって変わる。
 でも困っている人、飢えている人に食べ物を差し出す行為は、立場が変わっても国が違っても「正しいこと」には変わりません。 絶対的な正義なのです。

 ひもじい思いをしている人に、パンの一切れを差し出す行為を『正義』と呼ぶのです。」


 「積極的平和主義」を掲げる安倍晋三氏は、やなせさんのこの言葉をかみしめるべきだ。

 9月6日に引退会見を行ったスタジオジブリの宮崎駿監督。宮崎監督は次の言葉を口にした。
 「僕は児童文学の多くの作品に影響を受けてこの世界に入った人間ですので、今は児童書もいろいろありますが、基本的に子どもたちに「この世は生きるに値するんだ」ということを伝えるのが、自分たちの仕事の根幹になければならないと思ってきました。それは今も変わっていません。」
 「ジブリを作った時の色々なことを思い出すと、浮かれ騒いでた時代だったと思います。経済大国になって日本はすごいんだ、ジャパンイズナンバーワンとかね。そういうことが言われていた時代だったと。
 それについて僕はかなり頭にきていました。頭にきていないと『ナウシカ』なんか作りません。
 でもその『ナウシカ』、『ラピュタ』、『トトロ』、『魔女の宅急便』っていうのは基本的に経済は勝手に賑やかだけど、心の方はどうなんだとか、そういうことを思って作っていました。」

 宮崎駿監督の最新作『風立ちぬ』は"零戦"をテーマにした作品だが、同じ"零戦"をテーマにした作品を酷評している。
 CUT 2013年9月号(ロッキン・オン)に収録されたインタビューで宮崎駿監督はこう語っている。

 「今、零戦の映画企画があるらしいですけど、それは嘘八百を書いた架空戦記を基にして、零戦の物語をつくろうとしてるんです。神話の捏造をまだ続けようとしている。『零戦で誇りを持とう』とかね。それが僕は頭にきてたんです。子供の頃からずーっと!」
 「相変わらずバカがいっぱい出てきて、零戦がどうのこうのって幻影を撒き散らしたりね。戦艦大和もそうです。負けた戦争なのに」
 「戦後アメリカの議会で、零戦が話題に出たっていうことが漏れきこえてきて、コンプレックスの塊だった連中の一部が、『零戦はすごかったんだ』って話をしはじめたんです。そして、いろんな人間が戦記ものを書くようになるんですけど、これはほとんどが嘘の塊です」
 「宮崎駿、『風立ちぬ』と同じ百田尚樹の零戦映画を酷評「嘘八百」「神話捏造

 の記事にも記述があるが、『海賊とよばれた男』で本屋大賞を受賞した百田尚樹氏は、渡部昇一氏との対談で、「安倍政権では、もっとも大きな政策課題として憲法改正に取り組み、軍隊創設への道筋をつくっていかねばなりません」と語り、朝日批判では、「自虐史観とは大東亜戦争にまつわるすべてを『とにかく日本が悪かった』とする歴史観です」と述べている。

 安倍政権の誕生と百田氏の本屋大賞受賞との間に因果関係があると見る向きも多いのだ。

 やなせさんが指摘する、本当の正義とは、「困っている人を助けること。ひもじい思いをしている人に、パンの一切れを差し出す行為」であって、「相手の国にミサイルを撃ち込んだりすること」ではないとの言葉を私たちはじっくりとかみしめておく必要がある。パンひときれ差し出す行為に国の違いはない。近隣の国々と助け合い、尊重し合いながら生きてゆくのが、日本が進むべき道である。

 テレビドラマでは「半沢直樹」が大ヒットし、社会現象にもなった。
 娯楽性が高かったことが高視聴率の背景にあるが、同時に、巨大な力に対して、一人の正義感を持った人物が立ち向かう行為に、多くの人々が快哉(かいさい)をあげたのだと思う。歪んだもの、薄汚いもの、邪悪なものであっても、力の強い者にはものを言わず、ひれ伏す空気が蔓延している。

 正義を貫こうとすれば、恐ろしい弾圧に見舞われることも、多くの人が目にしてきている。
 こうした時代の空気のなかで、それでも、心の片隅に、これではならぬ、正義を貫くことが必要だと思う心が残存しているのである。
 力の強い者にひれ伏し、目先の損得だけで、正義を脇に置いて、「今だけ、金だけ、自分だけ」の行動を示す者だけがこの世を占拠すれば、世界は文字通り、暗黒になる。
 やなせさん、宮崎監督、そして半沢直樹が、私たちに語りかけることは重大で貴重なものである。

※続きは、メルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』(有料)」第694号「やなせたかし・宮崎駿・半沢直樹」にて。


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・植草一秀の『知られざる真実』


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