少子高齢化社会の進行にともない、社会保障費やインフラ整備費による地方財政の逼迫が懸念されている。本稿では、運動療法による高齢者の健康維持を提唱する大学教授と、地域医療に長年携わる医師を新たに迎え、健康づくりに向き合う各々の姿勢や行政に対する要望などを誌上鼎談の形式でお送りする。ご登場いただくのは、以下の3名だ。
北九州市長 北橋 健治 氏
筑波大学大学院 人間総合科学研究科 教授 田中 喜代次 氏
医療法人秀英会新庄整形外科医院 理事長 新庄 信英 氏
<地域医療からの提言 予防医療に注力を>
――各々の取り組みに対して、各人のお立場からご意見はありませんか。
新庄 北橋市長のお話にありました「認知症サポーター」に関してですが、高齢者をサポートする人材の育成は非常に重要なことだと思います。私の運営するフィットネスクラブでも、新人研修や定例会議でのケーススタディなどを通じ、高齢者の健康や運動に関する知識を何度も繰り返して教え込んでいます。若いスタッフは、どうしても高齢者の悩みに無頓着になりがちです。健康運動指導士の資格取得を奨励し、常にその点に意識を持つように指導しています。
田中 メディカルフィットネスでは、高齢者が安心して運動できるように、医療系スタッフと運動指導スタッフとの連携が重要になってきます。医療系スタッフと指導スタッフの合同検討会を定期的に開催して、施設利用者の情報を共有しながら信頼関係を築くことが欠かせません。
――医師自らが運動施設を運営されているのですから、新庄先生はメディカルフィットネスの実践者とも言えます。実践を通じて、どういったご感想をお持ちですか。
新庄 1つは医療機関とフィットネス施設の双方が、まだまだ利用者・患者に寄り添えていないと思います。医師は医学的な助言止まりですし、フィットネス施設は医療に踏み込めずにファッション重視のままです。フィットネス業界の苦境は、そうしたところに原因があるのではないでしょうか。
もう1つは、高齢者の健康づくりに対して、行政にもう一歩踏み込んでいただきたいという要望があります。どんなに「運動しましょう」、「健康的な食事をしましょう」という立派なアナウンスを流しても、それだけでは健康状態は改善されません。これは九州大学が行なった「久山町研究」(糟屋郡久山町の全町民を対象にした、3世代、50年間にわたる疫学研究)の報告にも明らかです。予防医療に従来よりも多くの予算を振り分け、住民に運動や健康づくりの具体的道筋を示すことで初めて、多くの高齢者の皆さんが自分の健康のために動き出すのです。こうした動きが全国に広がることを願っています。
――「自分の健康を自分で守る」ことは、当たり前のように思えて意外と億劫なものです。要介護者の急増を抑えるためにも、これをサポートする体制が必要な時代なのかもしれません。
田中 国民の多くが医療保険に加盟していないアメリカでは、自分の健康を守るために16% の人がフィットネス施設を利用しています。他方で、日本ではわずか3%にとどまります。今後は増えることが見込まれますが、施設の側も医療機関との連携を通じて高齢化社会に対応した体制を整えて欲しいと思います。
12月の2日間にわたって、当研究会が北九州市で開催する「メディカルフィットネスフォーラム」には、全国から数百名の医師や運動施設関係者がおいでになりますので、こうした場でも、運動療法の必要性を訴えてまいりたいと思います。
新庄 膝を悪くして歩けなかった患者さんが、プールでの水中歩行によって歩けるようになり、トレーニングジムで筋力をつけて、最後に念願のバス旅行に出かけられた様子を見て、私はこれをやってきて良かったとしみじみ感じました。今後も医療と運動を融合させた取り組みを通じて、高齢者の健康増進と疾病予防に取り組んでいきます。
北橋 今年度から「北九州市健康づくり推進プラン」をスタートさせたことで、本市もより具体的なかたちで、高齢者の健康づくりを支援しています。本市で開発した「ひまわりタイチー(介護予防太極拳)」や「きたきゅう体操」は、生活習慣病の改善や高齢者の健康づくりに役立つでしょうし、市内の健康イベントに参加するとポイントが貯まる「健康マイレージ事業」のように、楽しみながら健康づくりができる仕組みも始まっています。
こうした取り組みを通じて高齢者の自主的な健康づくりをサポートしつつ、健康寿命の延伸や医療費の適正化など、超高齢社会に対応した持続可能な街づくりを目指していきたいと考えています。
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