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大さんのシニア・リポート~第14回 認知症介護の責任は誰にあるの?
社会
2013年10月24日 10:52

 認知症を患った高齢者がかかわった事件や事故が後を絶たない。悪徳業者から高額なサプリメントを買わされたり、必要ないリフォームを繰り返されたり、記憶にない万引きをしてしまう場合も多い。また、介護に疲れ果てた家族が、認知症の親を手にかけたりする殺人事件も目立つ。注目すべきは、91歳になる認知症の父親が線路内に入り、列車にはねられて亡くなる事故が起きたのだが、この男性の遺族に「事故防止の責任が家族にある」とし、約720万円を鉄道会社に支払うよう命じる判決が出されたことだ。

asahisinbun.jpg 事件の内容は、朝日新聞(2013年9月27日付)によれば、「事故は2007年12月に起きた。愛知県に住む当時91歳の男性が、JR東海道線の共和駅で、列車にはねられ死亡した。男性は要介護4.身の回りの世話は、同居する当時85歳の妻と、介護のため横浜市から近所に移り住んだ長男の妻が担っていた。この男性が外に出たのは、長男の妻が玄関先に片付けに行き、男性の妻がまどろんだ、わずかな間のことだ。(中略)JR東海は、男性の妻と、横浜で暮らす長男を含めたきょうだい4人に対し、振り替え輸送の費用など損害約720万円の支払いを求め、名古屋地裁に提訴した」
 同記事によれば、判決は、死亡した男性に責任能力がなく、遺族のうち、男性の妻と長男(63歳)に賠償責任を認めた。理由として、(1)(長男主導で)家族会議を開いて介護方針を決め、自分の妻に介護を担わせていた「事実上の監督者」。(2)徘徊歴や見守りの状況などから事故の予見可能。(3)(出入り口の)センサーを切ったままにしていた。(4)認知症が進行しているのに、ヘルパーの手配など在宅介護を続ける対策をとらなかった――などとされた。
 一斉に反発の声が上がった。同記事によれば、遺族代理人の弁護士は、「介護の実態を無視した判決だ。認知症の人は閉じ込めるか、施設に入れるしかなくなる」と批判。長男は、「一瞬の隙なく監視することはできません。施錠、監禁、施設入居が残るのみです。父は住み慣れた自宅で生き生きと毎日を過ごしていましたが、それが許されないことになります」と名古屋高裁に控訴したという。

 現在、65歳以上の高齢者の462万人が認知症だといわれている。実に7人に1人が認知症ということになる。JR東海が裁判で損害を請求したことは、皮肉にも大きな問題を提起することになった。
介護する側に責任が生じるということになれば、施設もまた認知症の人を引き受けることを躊躇させるだろうし、家族は親の介護を拒否するだろう。これを解決する妙案がないものか。同記事で「認知症の人と家族の会」(本部・京都市)のT代表理事が提案する「保険のような補償の仕組み」に私も賛成だ。

 鉄道事故だけではなく、認知症の高齢者のなかには、高速道路を逆走したり、道路の中央を歩いたり、危険を自覚できない人も多い。
 交通事故だけではなく、「万引き」、それも高齢者の万引きが急増している。「経済的に窮乏」という理由が大半を占める。そのなかに、認知症の高齢者がいる。認知症の人たちは万引きが犯罪だという意識がない。「そこに欲しいものがあるからポケットに入れただけ」という意識である。
 しかし、店側から見れば立派な犯罪である。店は当然警察に連絡する。万引きは刑法235条で窃盗罪として扱われ、10年以下の懲役、または50万円以下の罰金を科せられる。ただし、実際に送検される例は少なく、厳重注意のうえ誓約書を書かされておしまいという「微罪処分」として扱われるケースが大半だ。もちろん悪質な場合とか、万引きを繰り返す人は送検され、裁判で懲役や罰金刑を言い渡されることになる。
 そのなかに認知症の高齢者も含まれる。裁判時に「心神喪失」を理由に「無罪」を勝ち取る場合も当然ながらある。『PRESIDENT』2009年8月3日号「PRESIDENT Online」に報じられている。
 認知症の万引きの場合、「成年後見人」がいると、その時点で「微罪処分」となる場合が多いという。成年後見人というのは、主に認知症の高齢者が所有する現金を含む財産の管理を委託された人のことで、主に弁護士や司法書士などが後見人になる場合が多い。この成年後見人を「付ける」のと、「付けない」のとで罪の軽減が生じるというのも納得しがたい。

hito.jpg 「特報首都圏 超高齢社会 どう守る ひとり暮らしの認知症」(NHK総合テレビ2013年10月11日)を見た。ひとり暮らしの認知症の女性(89歳)が、投資会社の社員と名乗る男から、総額5,500万円という高額な投資被害の実例を紹介した。
 認知症の高齢者が成年後見人制度を知り、利用する人は多くはない。第一、後見人そのものの数が圧倒的に少ない。東京都品川区では、「品川後見センター」を社会福祉協議会の後押しで立ち上げた。弁護士や司法書士などの専門家(個人)ではなく、センターそのものが後見人を引き受けるというシステムである。退職して時間に余裕のある人たちを中心に勉強会を開き後見人を育成した。その数92人。センターが後見人だから、後見人(個人)が依頼人(ひとり暮らしの認知症の高齢者)の財産を勝手に処分するなどの事件も起こりにくい。加えて認知症ゆえ多岐にわたる問題行動にもセンターとして対応が可能になる。活動範囲もおのずと広がる。前述の89歳の女性も、「認知症の人の投資は無効」と投資会社と対峙して、4,400万円を取り戻すことに成功した。
 超高齢化社会を迎えている。国も自治体も有効な手を打てないまま、後手後手に回る感が強い。認知症の急増は、正しく「想定内」のはず。知っていて行動に移さないのは「不作為犯」である。有効な手を打たないまま、先延ばしにすれば、間違いなくこの手の「事故・事件」は多発する。

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<プロフィール>
ooyamasi_p.jpg大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。


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