「江田（憲司前幹事長）に出ていってもらいたい」。
　渡辺喜美みんなの党代表は最近、こう公言してはばからなくなったという。すでに２人の冷え切った関係は公知の事実で、会合で同席しても言葉を交わすことはもちろんないし、視線すら合わせることはない。それでも江田氏は「みんなの党を自分から離党するつもりはない」という。江田氏には「みんなの党を作ったのは自分。渡辺代表といえども、そう簡単に除名できるはずはない」との確信があるようだ。どちらが倒れるまで戦いは続く。両者が根くらべしている状態だ。

　このままで事態がおさまるわけはない。実は渡辺氏側は本格的に「江田斬り」を進めている。
　まずは10月11日、浅尾慶一郎幹事長と山内康一国対委員長は午後２時に横浜市青葉区にある江田氏の地元事務所を訪れた。「新党結成の動きをすれば、反党行為とみなす」と江田氏に通告するためだ。これは行動の自由を制約し、事実上江田氏の　両手をもぎとるのに等しいが、それで屈する江田氏ではなかった。
　「臨時国会の間は自分が主催する勉強会は自粛する。しかしそれ以降は自由だ」。
　「政治家として誰と会おうが私の自由。基本的人権だ」。
　夕方に衆院第二議員会館の事務所で行なわれたブリーフィングで、江田氏はそう述べた。

　だが、その30分前に浅尾氏が行ったブリーフィングの内容は微妙に違っていた。
　「他の議員と新党を結成すると思われる行動は慎んでほしい。期間は国会開会中だけというわけでは・・・」。
　その言葉は微妙なニュアンスを含んでいた。渡辺氏側としては、ずっと江田氏の動きを封じていきたい。そして少しでも怪しい行為があると、「反党行為」として除名するつもりだ。それが「新党を結成する動き」であるかどうかを判断するのは江田氏でも第三者でもなく、渡辺氏という前提だ。

　翌週の15日、民主党、日本維新の会、みんなの党の３党のイニシャルで命名されたDRYの会が新世研と名前を改め、その第一回総会が衆院第一議員会館地下の会議室で開かれた。参加者は63名。注目の江田氏は、開始前に姿を見せた。唯一この会だけは「単なる勉強会」と渡辺氏が認めたため、堂々と参加できるからだ。党内の会合には遅れて参加する江田氏だが、この時ばかりは晴れやかな顔で張り切った様子だった。
　司会進行役は柿沢未途氏だった。８月23日に渡辺氏にみんなの党を事実上除名され、今は無所属の身だ。仲間を１名でも集めたい日本維新の会が触手を伸ばしているとも聞く。ただし本人は今のところ、動くつもりはないようだ。
　会は完全オープンのかたちで行なわれた。マスコミ向けというより、渡辺氏側に不審を持たれないようにという配慮だろう。新党結成などの議論は、その場で一切行なわれなかった。

　しかし「江田斬り」は着々と進められていた。新世研が開催された同日、渡辺氏は同党の参院議員の小野次郎氏をそっと自室に呼び入れていた。小野氏はみんなの党の倫理委員長と参院国対委員長代理を務める。渡辺氏は国対委員長代理の解任を申し渡した。
　しばらくして部屋を出た小野氏は、すぐさま携帯を取り出し、数名の同志に電話をかけた。そのなかにはかつての同志である柿沢氏も含まれていたという。8月7日には政調会長代理を解任され、22日には渡辺氏から「この場で離党届を書け」と迫られ、拒否するすべのなかった柿沢氏に、自分の境遇を重ねたのかもしれない。

　小野氏の代わりに参院国対委員長代理に任命されたのは松田公太氏だった。渡辺氏の妻のまゆみ夫人のお気に入りであり、茶坊主ならぬ「ティー坊主」と揶揄されている松田氏は、タリーズジャパン創業者であるが、その政治手腕については評価は高くない。
　松田氏は７月の参院選では、東京選挙区でみんなの党が惨敗した原因を作った「戦犯」だ。川田龍平氏が健康上の理由で比例区に転出したものの、裏も表も現職議員を擁するみんなの党は１議席を確保することができたはずだった。そのうえ、松田氏は渡辺夫妻にばかりに目が向いている。その姿勢に「果たしてちゃんと国対ができるのか」と危惧する声が多く、今回の「側近登用」についての批判が目立った。

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