<特定地域の長期断水回避に恩恵>
配水調整システムの完成により、5浄水場間、21配水ブロックごとの水需要に応じた流量、水圧調整が可能となった。流量調整は、配水管に取り付けた流量計データをもとに電動弁を遠隔操作。水圧調整は、水圧計データをもとに同じく電動弁操作を行なう。通信は専用インターネット回線(VPN)を使用。システムの恩恵は、渇水などの異常時に適切な水運用はもちろん、管網自体の異常の発見や使用水量の情報収集、予測など平時の水運用にももたらされた。特に漏水防止については、水圧の適正化により、4,000~5,000m3/日程度の抑制効果が得られている。
併せて、当時設置されたテレメーターなどは約240カ所。設置工事の際、「電動弁の設置工事は、道路の通行止めをともなったが、市民からの苦情はほとんどなかった」(同局担当者)という。渇水対策としてのシステム導入に対し、ユーザーがどれだけ期待を寄せていたかを物語るエピソードだ。
システム運用開始後の94年、福岡市は再び渇水の憂き目に遭う。給水制限は前回を上回る295日におよんだ。その際、システムはどう機能したのか。
まず、ほとんど干上がった水源ダムから取水する浄水場の配水量を減らした。その一方で、比較的余裕のある浄水場の配水量を増やす浄水場間の相互融通を実施し、特定地域の長期断水を回避。システムがなければできない措置だった。このほか、水圧調整による出水不良の防止、電動弁操作による人的負担の軽減などでその効果が確認されている。
<熟成された3代目システムが稼働>
配水調整システムは、95年に2代目システムに更新される。2代目システムでは、LAN二重化などシステムダウンに備えたバックアップ機能、オペレーターの負担軽減のための運用支援機能が新たに加えられた。初代システム導入時に比べ、管路延長や施設が拡大していたことへの対応でもあった。
そして13年4月、新庁舎建設に併せ、3代目システムに切り替わる。基本的には2代目システムの考え方を踏襲したものだが、今回、運用支援機能の拡充がなされた。運用支援機能には、1日約2,000回に上る電動弁操作を行なうオペレーターに対し、天候や気温などで増減する配水量について、過去のデータをもとに予測値を与えるなどの機能を向上させた。水管理センター内には、消防局のカメラ映像、水質監視データ、主要施設の電力情報などのモニターが新たに設置された。さまざまな情報を同時に確認できる「見える化」により、センターとしての「即応体制の強化を図るのが狙い」(同局担当者)だ。
熟成の域に入った感のある配水調整システムだが、課題もある。約300カ所あるテレメーターの更新だ。今年度から年20カ所ずつ更新していく計画だが、すべての更新に15年を要する。また、177カ所ある電動弁の法定耐用年数は30年。今後のメンテナンスを疎かにはできない状況にある。
福岡市は12年7月、シンガポールで開かれた国際水週間にブースを出展。配水調整システムをPRし、同じく水源不足で悩む同国関係者から熱心な質問を受けたという。世界で唯一、30年を超えて運用されてきた福岡市の配水調整システム。市の財産だと言っていい。その財産をどう守り、どう育んでいくか。さらなる進化が期待される。
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