<集団的自衛権の行使を縛る内閣法制局>
国家の自衛権には、個別的、集団的の両方があることは世界の常識である。平成25年度『防衛白書』には、集団的自衛権とは「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、実力を持って阻止する権利」と書かれている。
日本政府(内閣法制局)の憲法解釈では、「個別的自衛権については自衛隊の武力行使を認めているが、集団的自衛権については保有するが行使できない」としている。この解釈は昭和56(1981)年5月29日の政府答弁書からである。以後、この答弁書が日本政府の見解となり、歴代内閣は国会で集団的自衛権の質問が出るたびに、同じ答弁を繰り返してきた。
本来、内閣法制局は官僚だ。官僚が国家の基本問題に有権解釈を下し、それが日本政府の統一見解として、ことあるごとに持ち出されること自体おかしいことである。保有しているが、使用できない。こんな解釈は世界のどこにも存在しないし、論理的にあり得ない。集団的自衛権も自衛権であり、保有するが行使できないということは、日本は自衛権を放棄しているに等しいことになる。
また、内閣法制局の解釈に長年にわたり加担してきたのが、左翼マスコミである朝日と毎日である。湾岸戦争時の海部俊樹内閣で、自衛隊の国際協力活動が議論されるなか、朝日は「協力業務に自衛隊が必要か」、毎日は「納得できぬ憲法の拡大解釈」などの社説をたびたび掲載し、自衛隊の海外派遣は憲法違反である、集団的自衛権の行使に当たるなどという論を展開し続けた。
一方、産経は「いまこそ海部首相自身が決断し、憲法解釈に大きくジャンプすべき時である」とする社説(主張)などを展開し、政府に集団的自衛権の行使見直しを迫った。自衛隊の活動が国際的に高い評価を得るようになっても、自衛隊の海外派遣や集団的自衛権の行使見直しに対して、朝日と毎日のアレルギーは現在も続いている。安倍首相に対する両紙のスタンスを見れば一目瞭然だろう。
<安倍首相を批判する朝日・毎日の魂丹>
平成18(2006)年秋、第1次安倍内閣の最初の所信表明演説で、歴代首相として初めて、安倍氏は集団的自衛権の行使見直しを表明した。だが、当時の内閣法制局は集団的自衛権の行使見直しに強硬に反対した。このとき、産経と読売は行使見直しを支持したが、朝日と毎日は内閣法制局を「法の番人」と呼び、行使見直し反対のキャンペーンを展開したのである。
その後、安倍首相が退陣すると、この問題はほとんど議論されなくなったが、昨年秋に第2次安倍内閣が誕生すると、再び安倍首相は集団的自衛権の行使見直しに言及する。そして、集団的自衛権の行使を可能とする解釈変更に前向きな小松一郎駐仏大使が内閣法制局長官に起用されると、朝日新聞と毎日新聞は「異例の人事」として安倍首相を批判する論陣を張った。
本来、内閣法制局長官の人事は、首相の専権事項である。これまでのような慣例(法務、財務、総務、経済産業省出身者が就く)を打ち破り、政治主導で長官を選んだだけであり、安倍首相には何ら落ち度はない。
マスコミは、長らく官僚主導の政治を批判し、「官僚主導の政治から政治主導へ」と主張してきたのではないのか。内閣法制局も官僚機構であり、安倍首相の政治主導による長官人事は評価されることはあっても、マスコミから批判される理由はどこにもない。今回の長官人事を批判するのであれば、朝日と毎日は、今までの自分たちの主張が間違っていたと、読者に謝罪するべきだろう。
両紙の一連の長官人事に対する報道姿勢は、「まずは反対ありき」が根底にあるとしか思えない態度である。産経と読売は、安倍首相の集団的自衛権の行使見直しに向けての動きに対し、日本の安全保障政策の現実を踏まえて、あるべき方向性を社説にも掲載し、国民に理解を深めてもらおうとする姿勢がうかがえる。
それに対し、朝日と毎日は、安倍首相の集団的自衛権の行使見直しに正面から社説で反対論を展開するのではなく、両紙の主張を代弁してくれる人物(小松氏の前任の内閣法制局長官の山本庸幸氏など)の見解を詳細に紙面(朝日8月21日付)に掲載し、自分たちの主張を肩代わりさせる姑息な態度をとっている。
朝日と毎日が集団的自衛権の行使の必要性を否定するのであれば、社論を担当する論説委員自らが書いた社説で、「集団的自衛権の行使を否定する根拠」を読者に理解できるように説明する責任がある。それができなければ、安倍首相を批判する資格はない。
<プロフィール>
濱口 和久 (はまぐち かずひさ)
昭和43年熊本県菊池市生まれ。防衛大学校材料物性工学科卒業。陸上自衛隊、舛添政治経済研究所、民主党本部幹事長室副部長、栃木市首席政策監などを経て、テイケイ株式会社常務取締役、国際地政学研究所研究員、日本政策研究センター研究員、日本文化チャンネル桜「防人の道 今日の自衛隊」キャスター、拓殖大学客員教授を務める。平成16年3月に竹島に本籍を移す。今年3月31日付でテイケイ株式会社を退職し、日本防災士機構認証研修機関の株式会社防災士研修センター常務取締役に就任した。『思城居(おもしろい)』(東京コラボ)、『祖国を誇りに思う心』(ハーベスト出版)などの著書のほかに、安全保障、領土・領海問題、日本の城郭についての論文多数。5月31日に新刊「だれが日本の領土を守るのか?」(たちばな出版、現在第4版)が発売された。 公式HPはコチラ。
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