――原子力市民委員会の出した政策大綱の中間報告のなかには、被ばくの問題を「被ばくを避ける権利」という人権問題と捉えた部分を盛り込んでいますね。
荒木田岳准教授(以下、荒木田) 福島の問題と向き合うことなくして、脱原発はできない。つまり、脱被ばくの延長線上に脱原発があると、私は思います。原子力市民委員会の中間報告のなかには、"被ばくを避ける権利"として、福島の事態を人権問題と捉えて、打ち出しています。
被ばくが危ないと思っている有識者は多いのですが、その人たちのなかにも、仮に「被ばくすると危ない」と声を上げて、"何も起こらなかったらどうしよう"という不安があって、慎重になっている向きがあります。でも、肝炎でもエイズでも、キャリア(保因者)になった時点で、今後いつ発症するかという不安とともに暮らさなくてはならなくなるわけです。その意味で、今回の原発事故でも、被ばくさせられた時点ですでに被害は発生しているんです。健康被害が出ていないから被害はない、というのは、当事者でないから言えるのではないでしょうか。2011年の秋口から、政府の方針は除染するから避難するなという方向でしたが、除染費用がかさむわりに効果が上がらないため、ついに昨日、IAEAは日本政府に「1ミリシーベルト目標にこだわらなくてよい」と意見し、除染もあきらめ、被ばく容認の方向に進もうとしています。「利益と負担のバランスを考え、地域住民の合意を得て決めるべき」なのだそうですが、そもそも、住民の生命や健康をコストと秤にかけるという発想が人権感覚を欠いていますし、「家計の負担」と「被ばくの負担」を対立させることが、被害者切り捨てにつながることを見越しているだけに悪質だといえます。
こうした流れを変えていくために、原子力市民委員会では「人権問題」として、あるいは「人間の復興」という言葉で問題を捉え直そうとしています。
――アンケート調査などによると、子どもを持っている親たちの、約半分が今からでも避難をしたいという意見を持っているといいますが・・・。
荒木田 福島市の調査では、今からでも避難したいと思っている親(中学生以下の子を持つ)が、過半数いました。別の調査でも同様の結果が出ています。こちらの調査では、避難しないと答えた人も、今の仕事をやめられなかったり、避難すると住宅支援が受けられなかったり、お金がないから避難できないという理由でした。子どもたちが、被ばくしてしまうのを心配しながら暮らしている人は多いのです。
国や行政は、復興をアピールしたがっているが、現地の状況は少し違います。子どもたちの被ばくの心配をし、不安を抱えながら暮らしている人も多いわけです。仮に原発事故が収束したとしても、福島の問題は終わらない。このことはもっと知られてよいことだと思います。
▼関連リンク
・被災者一人ひとりに向き合う"人間の復興"を~原子力市民委員会・政策大綱中間報告
<プロフィール>
荒木田岳(あらきだ たける)
1969年、石川県生まれ。一橋大学社会学部助手を経て、2000年より福島大学行政政策学類准教授。専門は、地方制度史、地方行政。11年の福島第一原発事故後、除染作業などに携わり、原子力市民委員会の委員を務める。
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