みずほ銀行(佐藤康博頭取)は暴力団員らへの融資を放置していた問題で28日、再発防止策を盛り込んだ業務改善計画書や社内処分を金融庁に提出した。
<2トップ体制は現状維持>
それによると、まず、「みずほ銀行の業務改善計画の骨子」としては、次のようなものとなっていた。(1)グループが連携し暴力団員との取引を排除する専門組織を新設。(2)オリコと情報を共有し、暴力団員などの反社会的勢力への融資審査を強化。(3)コンプライアンス(法令遵守)部門を再編し、担当者も増員する。(4)元最高裁判事で、損失隠しを摘発されたオリンパスの第三者委員会の委員長・甲斐中辰夫弁護士を社外取締役に任命(同行は、3メガバンクのなかで唯一社外取締役がいなかった)。今後2~3名に増員する予定。(5)暴力団員との取引を経営陣に報告するための体制を強化する。(6)役職員向けの法令順守研修を実施し、再発防止を図る。
また、今回の問題に関する社内処分については、「みずほFG2トップ体制」は現状維持し、塚本隆史会長と佐藤康博会長は留任。報酬(みずほFGとみずほ銀行の合計年俸1億1,600万円)を半年間ゼロにするという。また、みずほ銀行では、塚本会長が退任し、佐藤頭取は留任となる。このほか、小池正兼常務執行役員(担当役員)と大谷光夫執行役員(担当部長)は辞任。他の役員は、報酬の1~6カ月間5~10%カット。西堀利元頭取らOB12人には、報酬の一部返上を要求する。
一方、中込秀樹委員長を含む弁護士3名からなる第3者委員会は、今回の件の問題を次の通り報告した。(1)信販会社を通じた融資だったため、 自行の貸出金との意識が希薄。(2)東日本大震災後のシステム障害で役職員が大幅に異動し、問題が引き継がれなかった。(3)担当部署が必要な報告や検討を怠り、それを組織として看過する体制となっていた。(4)金融庁に「経営トップには伝えていなかった」と誤った報告をしたのは軽率であったが、隠蔽した意図は認められなかった。これらは、ほぼみずほ銀行の主張に沿った内容となっており、調査の限界を指摘されることになった。
金融庁に業務改善計画書を提出した後、記者会見に応じた佐藤頭取(みずほFG社長兼務) は以下のように語り、自らの立場を擁護する強き姿勢を見せた
「今回の件はみずほ銀行で起こった問題であり、執行責任を負うのもみずほ銀行だ。銀行頭取としての期間は塚本氏の方が約2年と長い。また金融庁検査の対応をしたのも塚本氏であったことからその責任は重く、会長を退任してもらうことになった」
「私については、持ち株会社であるみずほFGの社長としての管理責任と、今年7月からの銀行頭取としての責任を処分対象と考え、引き続き頭取職にとどまることにした」
「塚本氏がみずほFGの会長を留任する理由は、銀行での執行責任を問うものであり、持ち株会社の管理業務とは異なるので、グループ全体の会長としての任務は引き続き務めてもらうのは妥当と判断した」
「私自身が責任をとって辞任すると考えたことはない。今回の件を受けて組織に問題があると改めて認識した。みずほを強い組織にするために全身全霊で取り組んでいく覚悟」
「トップである私に対する求心力は大きな傷を負ったが、業務改善計画の実施などを推進する過程で再び求心力を高めるようにしていきたい」
「今回の処分は過誤の大きさが反映したものであり、責任を果たしたかどうかによって決めた。担当役員の小池常務らは担当としてオリコの提携ローンによる反社会的勢力への「問題融資」を掴んでいながら、経営レベルに揉んだ提起しなかったことは、規則違反に近い過怠行為であったため重い処分とした」
「私は問題融資に記載された資料については知りうる立場ではあったが、見た記憶はなく、仮に見たとしても提携ローンの仕組みや特殊性から問題を認識することは不可能だと思う」
<金融庁11月5日から再検査へ>
みずほ銀行の業務改善計画の提出を受けて、金融庁はみずほ銀行に追加の立ち入り検査をすることを決めた。みずほ銀行は今年2月の金融庁検査で、「問題融資の情報は担当役員止まり」と報告し、金融庁もこの説明が正しいと判断して9月末、業務改善命令を出していた。
その後に実施したみずほ銀行の社内調査の結果、「問題融資の情報は経営トップにも報告されていた」ことがわかり、金融庁に誤った報告がなされていたことが判明。事態を重くみた金融庁は来月5日から一斉検査を実施することを決め、専門チームが大手3行の法令遵守などを横断的に調べることにした。みずほ銀行にはこのチームとは別のチームも入り、経営トップに報告していた事実を意図的に隠蔽していなかったかどうか調べることにしている。
10月28日に提出された業務改善計画に問題があれば、追加の行政処分が下されることになる。また悪質な「検査忌避」の実態が明らかになれば、再度改善策を取るように命じたり、関連業務の停止を命じたりする重い処分が下されることになる。
時を同じくして持ちあがった阪急阪神ホテルズ(大阪市)の「メニュー虚偽表示」について、一週間前には「偽装ではなく、誤表示」との見解を強調していた出崎弘社長(55)は、みずほ銀行の業務改善命令の提出期限の10月28日に記者会見し、「悪意をもってお客様を騙そうとした事実はなかった」と改めて従来の見解を強調したものの、一方で「お客様への裏切り行為にほかならず、表示を誤ったと言う範囲を超えている」と謝罪し、「偽装と受け止められても仕方がない」と述べて、11月1日付で社長を辞任することを表明した。
阪急阪神ホテルズは親会社の阪急電鉄と阪神電鉄の経営統合により、旧阪急系ホテルと旧阪神系ホテル、および旧第一ホテル(2000年に倒産し阪急グループへ)3社の寄り合い所帯であった。後任には親会社の阪急阪神東宝グループとのしがらみのない、第一ホテル出身の藤本和秀取締役常務執行役員(63)が就任する。
今回のみずほ銀行の「問題融資」も旧第一勧銀、旧富士銀行および日本興銀、3行の寄り合い体質から生まれた不祥事であった。
偽装表示からわずか1週間で退任に追い込まれた出崎社長は、社長としての経験も浅く、記者会見では、素人の域を出なかった発言と言われている。一方、みずほ銀行の源流は、日本初の商業銀行として発足した第一銀行(1873年 渋沢栄一頭取)である。幾多の試練を乗り越えて、今も日本のメガバンクとして生き残っているみずほ銀行には、「反社会的な勢力に対するたった2億円の問題融資で頭取が引責辞任しなくてはならないのか」という驕り」が、記者会見の席上続投を表明した佐藤社長の言葉の端々から読み取れた。つまり、玄人集団のみずほグループが全力を上げて組織を守ろうとする姿勢を示したと言っても過言ではないかもしれない。
金融庁自身もみずほの「誤った説明」を鵜呑みにして業務改善命令を発令した弱みがあり、もしここでみずほ銀に対して甘い処分を下すようなことをすれば、「鼎の軽重を問われる」ジレンマに直面するだろう。検査の進展次第によっては、「佐藤頭取が責任を取って退任に追い込まれるのか」、「金融庁が振り上げた拳をおとなしく引っ込めるのか」、それとも「反社会的勢力に対する問題融資が金融界を揺るがす問題として浮上してくるのか」、金融関係者はじっと固唾を呑んで事態の推移を見守っている。
平家物語の冒頭には、「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり」で始まる一節が詠われている。「みずほ銀行の佐藤社長も金融庁検査の結果如何によっては、同じ運命を辿ることになる」との声も囁かれている。
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