福岡とはどんな街なのだろうか。住みやすさには定評があるが、どんな魅力を抱え、どんな問題点を抱えているのだろうか。また、他県出身者はどんなことに少し戸惑うのだろうか。他県出身でこの4月から福岡に来たばかりの記者が、やはり他県出身で福岡に住んでいる方々に話を聞いて、よそものから見た福岡像をまとめてみた。ずっと住んでいる人には当たり前になってしまっている福岡の魅力や不思議さを再評価して、ビジネスに活かしてみてはいかがだろうか。
<避難女性が見た福岡の魅力>
福岡に移り住んできた3人の女性に、福岡の魅力などを聞いてみた。3人とも原発事故を契機に東京から移り住んできた避難者ということもあって、食が美味しいだけでなく、安全であること、地震や津波の可能性が他の地域と比べて低いという点で、福岡を非常に評価していた。それに加えて、人々の親切さや住宅事情の良さ、自分たちが住んでいる地域を誇る気持ちの強さがとても感動的だという。
福島出身で、東京から避難してきた尼僧、釋尼俱會(くうえ)さんと、娘のよりこさんは、福岡市に隣接する町に住んでいる。かなり立派なその住まいは、何と無料で貸してもらっているという。また、避難者であると知って、周りの人々がさまざまな日用品を持ってきてくれる。お金まで届けてくれるのには、尼僧の俱會さんも驚いたという。
東京から避難してきた荒木さんも、玄海原子力発電所のことが気になって九電本社前の座り込みテントを訪れた際、「家のない人がいたら、いつでも貸してもらえる」という話を聞いてびっくりしたことがあるという。原発避難者を支援してくれている「おいで福岡」プロジェクトでも、住む家がない人のために、シェアハウスを紹介している。「おいで福岡」プロジェクトには避難経験者もいるが、構成員のほとんどは、福岡の人である。優しさや豊かさが背景にあってこその親切なのだろうが、なかなかできることではない。
よりこさんは、福岡がかなり前からアジアの玄関口となって国際都市化していることもあって、外来者に対してとても親切なのではないかと推測する。
首都圏では、他人の子に声をかけることすらためらわれるような雰囲気がある。しかし、首都圏から来た若い母親たちから、福岡では「近所の人が子どもの面倒を見てくれて助かる」という話を何度も聞いた。「福岡の人のなかには、ちょっとおせっかいかもしれないくらい、とても親切な人がいる」と俱會さんも指摘するが、福岡には昔の日本のように親切さや人情味が残っている。子育て中の母親にとっては、とてもありがたい土地と言えるだろう。
交通機関も乗客も優しく、温かい。東京都を走っている都バスは、基本的にバスが到着したときに停留所にいた人しか乗せない。ドアを閉めようとしたときに、ドア前に乗ろうとする人が立っていても、乗せずに走り去ってしまうことが多い。ところが福岡のバスは、そのバスに乗ろうと走ってくる人まで待っていてくれる。しかも、その乗客がきちんと座ってから発車する。また、高齢者が乗車・降車に時間がかかっても、乗客がいら立つこともない。これは実に驚くべき経験だったと皆が口をそろえた。
病院や医師がとても親切なことを、70歳の俱會さんはとても喜んでいた。東京ではなかなか医師とゆっくり話をすることができないが、福岡では医師にじっくり話を聞いてもらえる。九州は、全国平均と比べて医師の数が多いということもあるだろうが、東京から来て3年になる60歳男性も、やはり病院や医師の親切さには驚いていた。
また俱會さんは、福岡に「本州と違ってもいい」と思い、「東京に行ったことがないし、行く必要もない」と考えている人が結構たくさんいること、空海が京都に行く前に福岡に1年ほどいたことから、人々が仏教の発祥の地という誇りを持っていることなどに最初は驚いたという。しかし、「土地の人がその地域に自信や誇りをもっていることは素晴らしい」と言う。
よりこさんは、福岡を出た人が福岡に戻ってくることを「帰福(きふく)」と話すことに戸惑い、最初は何のことかわからなかったという。しかし、意味がわかってみると、そうした表現は、土地に対する愛着の表われではないかと感じるようになったという。ちなみに、同じ「福」が地名についている福島では、「帰福」という言葉は使わないそうだ。
このほか、夜にごみ回収が行なわれることもあって街がきれいなこと、ごみ箱があまりなくてもごみが散乱していないことには、3女性だけでなく、多くの他県出身者が驚いていた。
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