山本太郎参議院議員が「福島原発の作業員の状況」について園遊会で天皇陛下に現状を伝える内容を記した手紙を渡した件について。(1)~(4)の問いを設けて憲法上正しいと思われる回答を書いてみた。報道でその内容を確認しておきたい。
陛下に手紙、山本太郎議員から聴取 参院議運委員長
『朝日新聞』2013年11月1日
参院議院運営委員会の岩城光英委員長(自民党)は1日、山本太郎参院議員(無所属)が10月31日の園遊会で、天皇陛下に手紙を手渡したことに対し事情を聴いた。5日に同委員会理事会を開き、対応を協議する。事情聴取には与野党筆頭理事が同席し、水落敏栄・与党筆頭理事は記者団に「理事会にかけ、何らかの処分はしなければいけないと思っている」と述べた。
山本氏は聴取後、記者団に「マスコミが騒ぐことによって政治利用にされてしまう。政治利用なら手紙の内容を公開するはずだが、一切していない。個人として陛下に子供たちの健康被害や被曝(ひばく)労働者の切り捨ての実情を伝えたかっただけだ」と、政治利用との指摘を強く否定した。ただ、「ルールを知らずにお手紙を渡したことは事実。そのことに関する議会のお沙汰が出た時には受け止めるしかない」と述べ、同理事会が処分などの決定を出した場合は従う意向を示した。
脱原発を掲げる山本氏は、東京電力福島第一原発の事故の現状を天皇陛下に伝えたかったといい、手紙には原発事故による子どもたちの被曝(ひばく)や作業員の労働環境の現状などを書いたという。31日、記者団に「政治家である前に人間として憂えを持っている。身分を横に置いて、思いを伝えたかった」と述べていた。
この問題について重要なのは、誰が天皇に手紙を渡したか、とか、どういう内容を頼んだか、という問題ではなく、権力者である国会議員が日本国憲法における天皇の位置づけをどのように考えているのか、という重要な問題に直結しているというところだ。
日本国憲法では次のように書かれている。
第四条 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。
このように書かれており、天皇というのは「日本国の象徴」であるがゆえに、「国政に関する権能を有しない」存在なのである。ここが現在の日本国憲法と旧大日本帝国憲法の大きな違いだ。
この第4条に定められている「国政に関する権能」の例外として、天皇の国事行為というものが定められている。(日本国憲法第6条、第7条に規定されている)
要するに「国会議員が天皇に国政の案件について直訴する」という行為は今の憲法の枠外にある行為なのだ。
その上で(1)~(4)の疑問を考えてみる。
(1)この行為は不敬罪に相当するか
相当しない。現在の憲法下では不敬罪は存在しない。刑法では罪刑法定主義に基づくので罪にならない行為を罰することはできない。
(2)国会議員が天皇陛下に手紙を渡すことは問題になるか
ご機嫌伺いのようなものであっても内容によっては憲法違反(第4条、第99条違反)になる。今回の場合は「原発作業員の待遇改善」などを暗に要望し、手紙を 天皇陛下に渡すことで結果的に内閣の行政行為を働きかけたものと認められるので、これは立法府や行政府の仕事である「政治的な権能」(憲法第4条)を単なる象徴に過ぎない天皇(第1条)に行わせようとしている。また請願法の規定上、天皇に対する請願は内閣を通すことになっている。
請願法の規定を具体的に知らなくとも(私も知らなかった)、そもそも憲法の条文を熟知していれば、「政治的権能を有しない天皇」に請願を行なうことは、第1に法的に無意味であり、第2に立法府の職務を理解していないのではないかと疑われることは容易に想像できる。
今回の件では国会議員である人間が憲法に定められた象徴天皇の経緯、三権の1つである立法府の 立場を理解していないから問題である。道徳的に問題なのではなく、憲法上問題なのだ。
なお、現在においても非公式な「内奏」が内閣総理大臣やその他の行政府の構成員に認められている現状については別に論じるべき問題である。
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<プロフィール>
中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。
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