山本太郎参議院議員が「福島原発の作業員の状況」について園遊会で天皇陛下に現状を伝える内容を記した手紙を渡した件について。(1)~(4)の問いを設けて憲法上正しいと思われる回答を書いてみた。報道でその内容を確認しておきたい。
(3)問題になるとすれば、何らかの処罰がされるべきか。
前例のないことで、憲法を順守しなくとも別に罰則が設けられていないし、院外の行為を理由に懲罰委員会で処分することは建前上できない(実際は幾つもの抜け道がある)。したがって、憲法を理解していないという点を山本太郎議員に深く反省してもらうというところが法的に妥当な線だろう。
今回の行為は自らが招いたものであり、マスコミがどのような報道をするかまで織り込んだ上で行動したのかどうか。マスコミは憲法問題も前面に出して報道している。この件で山本議員がマスコミを批判したのは筋違いである。(マスコミに批判されるべき問題はあるが、だからといってすべての問題をマスコミのせいにする特定の市民グループの態度には私は同意しかねる)
そもそも天皇に対する請願は法的にはまったく意味が無い行動であることを山本議員の秘書たちは指摘しなかったのか。この点から、山本議員サイドの最低限のガバナンス欠如が大いに危惧される。更に言えば、この件が有耶無耶になった場合、憲法を理解していない行動を今後もとる可能性をもある。院内の秩序を乱す行為に該当する事例も議院運営上のガバナンスを担当する秘書が存在しなければ大いに起こりやすくなる。これを考えると山本議員の参院における会派活動は、今後は絶望的なものになるだろう。その時点で彼の議員活動に展望はなくなる。
そもそも(2)にも関連するが、国会議員の仕事は立法にある。内閣に対して陳情することや、多数会派を形成して政治的主張を可決する法律に少しでも多く反映させるというのが本来の 議員の仕事だということを考えれば、今回の山本議員の行動はまったく「憲法知らず」としか言うほかはない。
他の部分でいかに政治的に正しい主張をしていようと、この1点で山本議員は重大な憲法違反を犯している。これはこれまでの政治的に物議を醸す主張(例えば、疑問の多い被ばく問題に対する一方的な断定調の評価)の問題や、個人的な結婚をめぐるトラブルなどとはまったく次元が違う問題だ。
また、これまでの山本議員の政治的主張を考慮すれば、彼は現行憲法の基本的人権規定を擁護する立場にあるはずだ。今回の行為は99条違反をしているので、この政治的主張とも矛盾する理解し難い行為という他はない。
有権者は、国会議員は憲法を順守するだろう、ということを暗黙の前提として受け入れている。その上で憲政の範囲内であれば、多少前例にない動き方をしても良いということだ。例えば、国会議員はデモに国民とともに参加しても別に政治活動の一環だから構わないが、議員がデモを禁止することは憲法違反である。それと同じように、立法行為や内閣への陳情を行なうことは構わないが、象徴天皇に請願を行なうことは憲法違反となる。
公務員による違憲行為といえば、ちょうど1年前に橋下徹・大阪市長が、自身に関する連載をめぐって『週刊朝日』に対する言論弾圧まがいの行為を行なって問題になった1件があった。
あの問題にしても「差別問題をデリケートに扱う」という単なる民間の側の出版マナーの問題と、橋下徹という「公務員である一首長が憲法21条をどのように順守するか」という別次元の問題があった。日本国憲法を重視する立場に立つならば、『週刊朝日』が何を書いたとしても橋下徹という一市長がその権力を背景に出版妨害をしてはならないのだ、という結論にならざるを得ないはずだが実際はそうならなかった。
一見、何の関係もないように思えるが、山本太郎議員の天皇への直訴行為も橋下徹大阪市長の問題と同じように、憲法をめぐる問題である点では同じである。
憲法を順守することを重く受け止められないのであれば、議員を潔く辞めた方がいい。幸いにして一市民であれば憲法を守る必要は現在の憲法では求められていない。(自民党憲法改正案では認められる予定)
<プロフィール>
中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。
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