連日の報道で「日本人が中国に行くと『尖閣問題』で問いつめられるのかもしれない」とおびえているかもしれない。しかし、実際、現地では、そのような空気はほとんどない。たしかに「釣魚島を守れ」といったスローガンを掲げた車もいたりするが、だからと言って日本人を見たら殴り掛かってくるわけでもない。逆にこちらから「釣魚島問題はどう考えている?」と質問すると「あれは政治上の問題で私たち個人の問題ではない」とそっけない。では、中国人は日本人に全く気を許しているのか、というと、実は彼らが日本人に対して「引っ掛かっている」ことがある。
ある中国人が日本人の記者(私)に近づいて、こう聞いた。「日本人は海豚(イルカ)を食べるのか?」。「食べないよ」と答えると、横からもう一人の中国人が「イルカではなく鯨魚(クジラ)だよ」と。イルカとクジラの区別がつかない中国人が多いが、どちらも哺乳類動物。一方、日本人はイルカとクジラの区別はついているが、「クジラを食べる」という食文化が残っている。
「小学生の頃は給食に出てきたりして食べたが、今はもう食べない」と答えると、2人の中国人は「やっぱり食べたことがあるのか。かわいそう!」と、非常に苦い顔をした。記者自身も「給食」として食べた程度で、自分で「好き好んで」食べた記憶は無い。ましてや現在、日本の一般市場にクジラの肉はマイナーな存在だ。
日本でも十数年前に「クジラを食べるのはいかがなものか?」という議論が巻き起こった。しかし、なぜ、いま中国で「日本人がクジラを食べる」という食文化が論議されているのだろうか?
中国のメディアは、新聞でもテレビでも、反捕鯨団体の日本の捕鯨団体に対する活動を連日報じており、一連の報道が中国一般人に対して「日本人は常日頃からクジラを食べる」という固定概念に繋がっているようだ。連日の報道は、「日本人は悪い民族だ」と印象づけたい中国政府の意向とも合致している。「韓国人は犬を食べる」と言われ、「一般人が常日頃から普通に犬を食べるのか。かわいそう!」と印象づけられた件と似ている。
件の中国人が、おそるおそる私に聞いてきた。「クジラの肉は美味しいの?」
まるで「人でなし」を見るような顔をしていた。
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