NET-IBでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事から一部を抜粋して紹介する。11月4日付の記事で、植草氏は、冤罪事件が繰り返される日本の刑事司法制度について、警察・検察・裁判所の問題について言及している。日本の現状が近代民主主義といかにかけ離れているか、同氏の指摘を読むと、マスメディアを挙げて大騒ぎして導入された裁判員裁判が刑事司法の抱える最大の問題の解決とは無縁のものだったことがわかるだろう。戦前でさえ重大事件では証拠能力を認めていなかった自白調書に、終戦直後のどさくさにまぎれて治安強化の観点から戦後、現在に至るまで自白調書に証拠能力を認め続けているのが今の日本だ。さらには、同氏の記事を読むと、前近代という驚くべき体質が司法だけの問題ではないことが伝わってくる。
「国家にしかできない犯罪、それは戦争と冤罪だ」
この言葉は、後藤昌次郎弁護士が残された言葉である。
冤罪ほど残酷な犯罪はない。
11月1日、東京の日比谷公会堂で、「弾圧に抗した11年!美世志会とともに当たり前の職場活動を守り抜く11・1大集会」が開催され、2,000名を超える仲間が結集した。
美世志(みよし)会とは、東日本旅客鉄道労働組合(JR東労組)で結成された、浦和電車区事件の冤罪被害者によって結成されている会である。
浦和電車区事件とは、JR東労組大宮地本副委員長ら組合員7名が、浦和電車区において日本鉄道労働組合連合会(JR連合)のキャンプに参加した青年組合員を、組合脱退及び退職強要させたとして、2002年11月1日に、強要罪の容疑で、逮捕・勾留、起訴され、有罪判決を示された事件である。
7名は344日にわたる勾留を強制された。344日に因んで、美世志会の名称が付けられた。刑事事件では、上告が棄却され、有罪判決が確定した。JR東日本鉄道会社は、判決確定後、直ちに6名(1名は事件時点ですでに退職)に対して、懲戒解雇の通告を行った。
これに対して、6名は、懲戒解雇処分撤回を求めた地位確認訴訟を提起し、東京地裁は2012年10月17日、6名のうち2名について、会社の解雇権の濫用を認め、懲戒解雇が「重きに失する」との判断を示した。
しかし、4名については、解雇無効の判断を示さなかった。
6名全員の解雇無効を求めて控訴審が開かれているが、11月27日には、控訴審判決が示される予定である。
浦和電車区事件は警視庁公安部公安二課が主導し、JR東労組の弱体化を図るための一段階として、本事件を強要罪として作り上げたでっちあげ冤罪事件であると考えられる。
集会では、美世志会の7名のメンバーがパネルディスカッションに登壇し、事件の概要、取調べ状況、勾留生活、JR東労組の支援活動などの多岐にわたって、詳細な発言が示された。
私も挨拶をさせていただく機会をいただいた。
同じ冤罪被害者として、冤罪被害が繰り返されない社会を構築する必要があると痛感する。
日本の警察・検察・裁判所制度は前近代に取り残されたままである。その問題点は無数に存在するが、あえて整理すれば、三つの問題が重大である。
第一は、基本的人権が無視されていることである。
警察・検察・裁判所は、人間に根源的な基本的人権を制限し得る強制権力を有する。したがって、その行使について、厳しい制約が課せられる。それが、近現代民主主義国家の根幹である。フランス人権宣言が制定されたのは1789年のことだ。その第7条、第8条、第9条に、適法手続き、罪刑法定主義、無罪推定原則が明記されている。いまから220年も前に、フランス人権宣言には、この規定が明記されているのである。それが、いまだに日本では、この三つの原則すら適正に運用されていない。
日本国憲法には、さらに、法の下の平等(第十四条)も定められているが、これも空文化している。基本的人権を守る運営がまったくなされていない。
第二は、警察・検察に法外な裁量権が付与されていること。
この裁量権とは、
1.犯罪が明白に存在するのに、無罪放免にする裁量権
2.犯罪がまったく存在しないのに、市民を犯罪者に仕立て上げる裁量権
である。
この法外な裁量権によって、冤罪が創作されるのである。
第三は、法の番人であるはずの裁判所が政治権力の支配下に置かれ、司法の独立が確保されていないことである。
日本国憲法は内閣総理大臣に強大な権限を付与しており、内閣総理大臣が、この規定を最大限に活用すると、内閣総理大臣は裁判所を支配できることになる。最高裁事務総局が下級裁判所の人事権を一手に握っているが、この最高裁事務総局がやはり、政治権力の支配下に置かれている。このため、裁判の公正、独立性は確保されていないのである。
人為的に冤罪事案は、容易に創作されてしまうのである。
※続きは、メルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』(有料)」第708号 「冤罪はこの世で最も残忍な国家による犯罪である」にて。
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