昨年の九州北部豪雨は、福岡県朝倉地区にも大きな被害を与えた。地道な復興活動に加え、2月に国交省が対処に訪れ、ようやく新しいまちづくりの基盤が整う。今、原鶴温泉街の老舗旅館である(株)泰泉閣の林恭一郎社長は、朝倉市の若者の企画立案力に、明るい未来の萌芽を感じている。
<福岡都市圏への交通の便を活かす若者主体のまち興し>
――水害から1年が経ち、恒例の花火大会も行なわれました。これで気持ちを一新して、街興し企画を実行していくことができそうですね。
林恭一郎代表取締役(以下、林) ええ、昨年の九州北部豪雨の際には、原鶴温泉の前の筑後川も増水して、一時はこの温泉全域に避難指示が出るなど、緊迫した状況も経験しました。年が明けても上流からの土砂が堆積したままの状態で、夏の風物詩である鵜飼いが例年のように実施できるかという不安もありました。しかし、各旅館の頑張りと関係者の方々のご尽力のお陰で今年も鮎漁の解禁日である5月20日に恒例の花火大会を行なうことができました。
6月に入ってからは、7日と8日に、「婚活イベント はらきん『ほっとな恋の予感プラン』」というイベントを行ないました。旅館でのお食事や温泉はもちろんのこと、鵜飼いや夜の原鶴散策など、楽しんでもらえるような企画をいろいろと盛り込みました。参加者の平均年齢は30代前半と比較的若い方が多かったためか、初体験の鵜飼いに感動された方も多くいらしゃいました。
――「はらきん」とは何でしょうか?また6月7日と言えば、金曜日でしたね。なぜ、休日ではなく、金曜日の夜に行なったのですか?
林 「はらきん」とは、「原鶴の金曜日」の略です。今回は「僕らの楽校」という若者たちのサークルがこの原鶴温泉を舞台とした婚活イベントを企画・運営してくれました。原鶴温泉は福岡都市圏から近すぎることがデメリットになるかと思いましたが、そこを逆に利点と捉えて、利便性、つまり「福岡から仕事が終わって駆けつけても十分間に合う!」ということを認識してもらえることを期待しました。
「はらきん(原金)」というキャッチコピーは「僕らの楽校」のメンバーの1人が思いついた言葉です。かつての流行語「花金」を文字った言葉で、「原鶴の金曜日が面白い!」ということを大々的にアピールしようという発想が生まれ、金曜日の夜の開催が重要なアピールポイントになったのです。
――「僕らの楽校」とは、どのような団体なのですか?
林 朝倉市の教育委員会生涯学習課が、毎年募集して行なっている青年講座のことです。20~30代の男女を対象としたもので、地域に根付いた団体として成長しつつあります。
――たしか、以前お話をうかがったときは、原鶴温泉街を活性化させいたいが思案中だという印象がありましたが、今は若者を中心として楽しい街づくりを行なおうというパワーがみなぎっていますね。
林 そうですね。もともと朝倉という地域はその歴史も古く、邪馬台国の卑弥呼伝説も根強くあり、小倉百人一首の最初の句「あきのたの かりほのいほの...」もこの地で天智天皇によって詠まれたという話もあります。また、秋月の桜や紅葉、小石原焼、三連水車といった観光資源にも恵まれ、各所でさまざまなイベント行事が実施されています。これらを朝倉地域全体として広く外部へ発信していくために地域の人同士のつながりが着実に深まってきつつある状況です。
そういう流れのなかで、今年の3月に「僕らの楽校」が企画した「0946ギネチャレ結」というイベントが原鶴の放水路で行なわれ、見事ギネス記録を更新するなど、朝倉地域は若者のパワーが中心となり、今後ますます盛り上がっていくことと思います。
――「0946」という番号には、どういう意味があるのですか?
林 「0946」とは、原鶴温泉のある朝倉市、そして筑前町や東峰村を含む朝倉地域に共通事項である市外局番のことです。「市外局番0946」にちなんで946人の二人三脚を行なってギネス記録にチャレンジする企画でした。互いの足を結ぶのはもちろん原鶴温泉の各旅館から集めたタオルです。実際には当初の予想を上回る1,039人もの方が原鶴の放水路に足を運んでいただき、多くのマスコミ機関にも報道されました。
――若者ならではの、斬新な企画ですね。
林 やはり活性化するには若者の力が重要ですね。原鶴温泉街自体は、最盛期には30件近くの旅館がありましたが、ここ十数年のうちに大幅に減少していきました。しかし、原鶴温泉も徐々に世代交代が進み、それぞれの旅館の経営者も社員も若返ってきています。先輩方も若手を尊重していただいていますので、若手世代同士、力を合わせて、今までにない発想で原鶴温泉のこれからのかたちを模索していきます。
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<COMPANY INFORMATION>
所在地:福岡県朝倉市把木志波20
資本金:1,600万円
TEL:0946-62-1140
URL:http://www.taisenkaku.co.jp/
<プロフィール>
林 恭一郎(はやし・きょういちろう)
1975年、長崎市生まれ、福岡県太宰府市育ち。筑紫丘高校・立教大学法学部卒業後、2010年に(株)泰泉閣代表取締役に就任。老舗旅館の3代目代表として温泉街の復興に尽力している。趣味は映画鑑賞、スポーツ観戦。
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