ネットアイビーニュース

NET-IB NEWSネットアイビーニュース

サイト内検索


カテゴリで選ぶ
コンテンツで選ぶ
会社情報

SNSI中田安彦レポート

山本太郎議員の直訴状問題について(3)~憲法知らずの国会議員
SNSI中田安彦レポート
2013年11月 7日 07:00
SNSI・副島国家戦略研究所 中田安彦

 山本太郎参議院議員が「福島原発の作業員の状況」について園遊会で天皇陛下に現状を伝える内容を記した手紙を渡した件について。(1)~(4)の問いを設けて憲法上正しいと思われる回答を書いてみた。報道でその内容を確認しておきたい。

(4)動機において山本太郎議員の行ったことは「善」なのだから良いではないか?
 そういう事にはならない。すでに述べたように、山本議員は立法府の職責を忘れており、憲法違反の行動を行なっている。原発作業員の待遇改善を法制化するのは議会や行政の仕事である。

 違憲であるが動機において善なる行為を容認することは、現行憲法の土台である象徴天皇制を少しずつ崩していくことになる。例えば今後、自民党や維新の会の議員らが「天皇陛下に靖国神社に参拝をお願いしたい」とか「尖閣諸島に灯台を建設してほしい」とか主張を始めたさい、「あの山本議員だって陛下に手紙を渡していたではないか」と反論されるだろう。そうなると象徴天皇制そのものが揺らいでしまう可能性もある。

 旧憲法下においては天皇が主権者だったので、田中正造のように天皇に請願を行なうことは、法的にも意味のある行為だったと言いうるが、現行憲法下において、このような直訴は法的に無意味であるし、政治的にも意味をもたせるべきではない。天皇は政治的権能を有しない象徴なのだから当然である。天皇に政治的権能を持たせたいのは、むしろ現在の憲法を快く思わない自民党議員たちだろう。そもそも山本議員は安倍晋三内閣総理大臣や参議院議長らに対して、天皇陛下に渡した手紙の内容と同様のはたらきかけ行為を行なうべきではなかっただろうか。それであれば、まったく問題はなかった。
 また、「山本太郎はたしかに天皇の政治利用をしているかもしれないが、他の議員も天皇や皇室を政治利用しているではないか」という反論もあるはずだ。この問題についても憲法を踏まえた議論が望ましい。しかし、式典における皇室の利用と、今回のように具体的な政策の実施に関わる部分での、利用しようとする意図は区別して論じる必要があると思う。天皇や皇族は象徴であるという位置づけを考えれば、限度の問題はあるにせよ、内外の式典において陛下や皇族方の参加をいただくことは、根底のところで憲法に違反しているとはいえないのではないか。今回の園遊会での政策に結びつく手紙を渡したこととは、次元が違う問題のように思われる。ただ、この点は、私は憲法学の専門家ではないので理解を誤っているかもしれない。

 特別職国家公務員である参議院議員には、憲法99条における憲法尊重擁護の義務が課せられている。アメリカ合衆国などの国においては、大統領が就任時に憲法を擁護する宣誓を行なうほどである。このことを重く見てもらわないと困る。

 「動機において善なる行為」が憲法の枠組みに抵触する場合をどのように考えるか、という問題は古くは戦前の哲学館事件において論じられたことがある。(詳しくは松本清張『小説東京帝国大学』などを参照)

 具体的に何が問題になったかという点においては、今回の場合とまったく異なるが、価値中立的な体系、ルールとして固まった憲法を違背する行為を無原則に容認することの危険性があるということを、統治機構に感じさせた点では類似している。

 現在の統治機構 (行政府)はますます統制を強めているが、その場合も、あくまで憲法の範囲内で、という建前に基づいている。統治機構は現在の憲法を内側から骨抜きにしようと解釈を試みているが、今回の山本議員の行動は外側からそれをいきなり崩すものであった。

 統治機構が憲法を骨抜きにしようとしていること、それを立法府の議員がそれを外側から崩そうとしたこと、いずれも問題である。今回の事件をきっかけに国会議員や行政府のメンバーは定期的に「憲法順守決議」を行なうようにしたほうがいい。憲法についてよく知らない議員は他にもいるはずだからだ。

 したがって、「動機において善である国家公務員の憲法違反を認めるか認めないか」と問われれば、具体的な法律の施行にあたっては、実態の運用上ではある程度の融通が効くというのが日本社会のあり方であるとしても、原則の話としては認めるべきではない、と答えるほかはない。

(つづく)

≪ (2) | (4) ≫

<プロフィール>
中田 安彦 氏中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。


※記事へのご意見はこちら

SNSI中田安彦レポート一覧
SNSI中田安彦レポート
2013年6月 4日 07:00
SNSI中田安彦レポート
2013年6月 3日 07:00
SNSI中田安彦レポート
2013年5月31日 07:00
SNSI中田安彦レポート
2013年5月30日 12:30
NET-IB NEWS メールマガジン 登録・解除
純広告用レクタングル

2012年流通特集号
流通メルマガ
純広告VT
純広告VT
純広告VT

IMPACT用レクタングル


MicroAdT用レクタングル