2012年4月に町制施行90周年を迎えた高千穂町(宮崎県西臼杵郡)。「天孫降臨の地」と言われ、日本中で知られる名高い歴史のまちだが、深刻な過疎化問題を抱える地域自治体の1つでもある。その高千穂町の特産物が、今、福岡などで数々のイベントを主催し脚光を浴びている。職員を率先して自ら経営手腕を発揮する内倉信吾高千穂町長への取材をもとに、高千穂町の魅力を再考する。
<国を代表する伝統芸能、高千穂の夜神楽の魅力>
内倉信吾高千穂町長は、「観光地の町長というのは、行政だけを見ていれば良いというものではありません」と言う。もちろん観光のことだけを考えていればいいというものでもなく、農林業、医師の確保、消防・防災、交通網の充実、町づくり――すべてに目を配る必要がある。宮崎県福岡事務所にも専属の職員が常駐しており、今年で7年目になる。同事務所から「問い合わせが多いので高千穂町から1人出向して欲しい」と頼まれたのがきっかけで、毎年1人置き、セールス活動を行なっている。
現在、宮崎県福岡事務所に常駐する企画広報担当課長代理の谷川祐一氏は、「内倉町長は職員の企画を何でも自由に受け入れて下さるので、私ども職員もやり甲斐があり、ありがたいです」と語る。積極的に指揮を執る町長のもとで職員も思い切り動けることが功を奏してか、近年、大きな企業、施設との提携が次々と実現しているという。「福岡に住んでみて驚いたのは、高千穂が秘境と思われていること。私たちにとっては、高速道路の関係で宮崎市内に行くより福岡市へ行く方が近く感じたものでしたが」という谷川課長代理は、その理由のひとつに「高千穂町の情報の少なさ」を上げる。「まず"意外と近い"という情報が知れ渡っていない。近さを感じてもらうためにも、まず高千穂町側から積極的に福岡市に進出して情報を発信することが大切です」(谷川課長代理)。
谷川氏は、今年の博多座9月公演で坂東玉三郎氏主演の歌舞伎「アマテラス」が行なわれるという情報を掴んだときも、すぐに玉三郎氏を高千穂に招く企画を立て町長に相談、1年以上かけて実現させた。
アマテラスといえば天照大神の再臨劇である、「高千穂夜神楽」は町の大切な財産だ。800年以上の歴史があると言われ、1978年には国の重要無形民俗文化財に指定された。シーズンは稲刈り後の11月下旬から翌年2月までで、日程も集落ごとに違う。しかし高千穂神社の境内に建つ「神楽殿」では、観光客のために1年中観てもらえるように、毎晩午後8時から9時まで神楽を公開している。また神楽は地域社会に根ざした大切な伝統芸能として、町を上げて保存にも取り組んでいる。2011年には高千穂の観光神楽を通じた保存、継承、活用が評価され、一般社団法人高千穂町観光協会として「高円宮殿下記念地域伝統芸能賞」を受賞した。「授賞式で高円宮妃久子様に『宮崎の高千穂町です』とご挨拶申し上げたところ、『存じております』とおっしゃられて、非常にありがたい気持ちになりました」と内倉町長は目を細めて当時を振り返る。
宮崎県福岡事務所でも10月末から11月にかけて、福岡県太宰府市の九州国立博物館で行なわれた「神話のふるさとみやざき神楽展」で高千穂夜神楽の上演と日向神話の史実と魅力についての講演を主催した。開催前の時点で、600人の定員がほぼ満席に。当日も盛況であった。
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