2010年1月1日、旧前原市、旧志摩町、旧二丈町の1市2町が合併し、新たに「糸島市」が誕生した。福岡市に隣接していながらも豊かな自然に恵まれている糸島市は、近年、各メディアに頻繁に取り上げられることもあって、一躍全国的に注目を集めている。いわば"バブル"とでも言うべき活況に沸いている糸島市は、これからどのように変貌を遂げていくのか――。
(株)環境デザイン機構・代表取締役の佐藤俊郎氏と合同会社伊都システムズ・代表社員の児玉崇氏の糸島市在住の2人に、これから目指すべき糸島市の都市づくりについて語り合ってもらった。
児玉崇氏(以下、児玉) 先ほども話に出ましたが、今、新しい人たちが、関東からとか外の地域から入ってきていますよね。そういう方たちを含めて、糸島は、すごく魅力はあるんだと思います。その魅力って、どんなところでしょうか。
佐藤俊郎氏(以下、佐藤) やはり基本的には、自然が豊かだということと、利便性がものすごく良いことですね。電車1本で空港まで行けて、30分で都心まで行けるなんて、こんな郊外ってないですよ。
たとえば、大野城とか春日なども、福岡に隣接していますが、向こうは基本的には福岡の延長線上の都市です。それに比べて糸島は、もちろん糸島からも多くの人が福岡に通勤していますが、都市の性格から言うと福岡の延長線とは違います。そういう部分で言うと、糸島は非常にユニークな都市ですよ。魅力としては最高ですね。
児玉 糸島は、いわゆる前時代の開発型の経済から、周回遅れで逆に最先端を行っているようなイメージはすごくありますね。"ネオローカルライフ"とでも言いますか。
先日、福岡の屋台で食事をした際に、そこの大将が「ウチの野菜とかは糸島に契約農家さんがいて、直接仕入れて...」みたいなことを話されていました。今、野菜をはじめとした"糸島ブランド"のイメージは強いですよね。たとえば、福岡県内の別のところの農家と糸島の農家がつくっている野菜を比べると、糸島の方が圧倒的に幅が広く、層が厚いらしいです。糸島産の方が買う方からするとしっかりしていて、農産物に対しての厚みがあるというようなことを言っていましたね。そして美味しい、と。
やはり農業という産業の部分が積み上げられて、地層のようになった厚みが、それがまた1つ糸島の魅力の下支えになっているのかな、と。そういった産業に根差した特性って、強いですよね。そこで人が生活していますからね。
佐藤 ただ、それだけ魅力がある糸島でありながら、なぜ人口が水平飛行状態で増えていかないのか、という理由も考えていかなければなりません。1つには、外から来た人が「実際に糸島に住んでみたらどうだったか」ということです。住んでみたときに、本当に生活しやすいか、と。
たとえば、まだ子どもが小さい若い夫婦とかでしたら、いいと思います。ただ、その子どもが成長して中学生、高校生となってくると、はたして糸島の学校で良かろうか、という話をいろいろなところで聞きます。また逆に今度は高齢になってくると、病院への近さなどの医療面を考えて、より利便性の高い福岡市内に移っていく、というような話も聞きます。
児玉 効率を考えると、やはり大都市の方がいいですからね。
佐藤 たとえば、九大学研都市のあたりがちょうど福岡市と糸島市の市境なんですが、あのあたりになると福岡市でも何となく糸島っぽい雰囲気があるんですよ。そういったところで、住民税や下水など、インフラにかかる費用や供給のことを考えて、「福岡市」か「糸島市」かを選ぶとなったときに、いかに糸島市を選ばせるか。そういった魅力付けというのが、これからの課題ですね。
児玉 そのあたりの価値付けというのが、なかなか難しいですね。やはり現状、確固たる価値というか、イメージというか、風土というか、地域の特性というのは間違いなくありますし、それに惹かれて人が入って来るだけの魅力は間違いなくあります。ただ、これからの未来において、それだけで未来が描けるか、安心できるかというところですね。問題はたくさんあるなかで、それをベースに新しい舵取りというか、価値づくり、まちづくりというのが、今、タイミング的には必要な状況ですよね。
<プロフィール>
佐藤 俊郎(さとう・としろう)
1953年生まれ。九州芸術工科大学、UCLA(カリフォルニア大学)修士課程修了。アメリカで12年の建築・都市計画の実務を経て、92年に帰国。(株)環境デザイン機構を設立し、現在に至る。そのほか、NPO FUKUOKAデザインリーグ副理事長、福岡デザイン専門学校理事なども務める。
<プロフィール>
児玉 崇(こだま・たかし)
1978年生まれ。福岡県糸島市高田(旧前原市)出身。国際基督教大学(ICU)教養学部卒業。証券会社勤務、調査会社勤務を経て、2010年に東京都中央区から糸島市へUターン定住。現在、合同会社伊都システムズの代表社員。
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