2010年1月1日、旧前原市、旧志摩町、旧二丈町の1市2町が合併し、新たに「糸島市」が誕生した。福岡市に隣接していながらも豊かな自然に恵まれている糸島市は、近年、各メディアに頻繁に取り上げられることもあって、一躍全国的に注目を集めている。いわば"バブル"とでも言うべき活況に沸いている糸島市は、これからどのように変貌を遂げていくのか――。
(株)環境デザイン機構・代表取締役の佐藤俊郎氏と合同会社伊都システムズ・代表社員の児玉崇氏の糸島市在住の2人に、これから目指すべき糸島市の都市づくりについて語り合ってもらった。
佐藤俊郎氏(以下、佐藤) こういうことを言うと反発を食らうかもしれませんが、インフラ的な考え方で言うと、福岡市のような住民サービスのレベルを目指した方がいいように思います。
たとえば医療の制度であれ、学校区のことであれ、文化施設であれ、福岡市のようなレベルの整備が実現できるのであれば、皆さん万々歳ですよ。ところが、やはりそこには「糸島は糸島なりに」という、良い意味での保守というか、別の価値観があるわけです。そこをどう維持しながら、住民サービスレベルでは福岡市に近づけていくか、という話です。
児玉崇氏(以下、児玉) そういう行政サービスの質というか、インフラ的なものについては、「大福岡」的な管理の仕方が望ましいだろうな、という部分はあると思います。
一方で、糸島独自で考えていかなければならない部分もあると思いますが、それはどういったところだと思われますか。
佐藤 私自身が前から思っている糸島の最大の難点は、企業が少なく、税収が少ない、ということです。ただし、かと言って企業を誘致してくればいいという話ではありません。それはほかの町の手法であって、糸島の手法ではないと私はずっと思っています。
糸島の場合ですと、別に100人を雇用できるような大企業じゃなくていいんです。10人を雇用する小さな企業が10社あればいいんです。その10社の小企業を、糸島のなかにどう植えつけていくか、です。
児玉 地域の特性に合ったところに入っていくということですね。
佐藤 働き方も含めてですね。
もう1つは教育という問題です。たとえば、糸島の小中学校は「食育!」とか、1点だけでも尖ったことをやってもいいと思います。糸島は全国でも、食育に対しては最もスゴイことをやっている、みたいな。学校給食にしてもセンター方式で1カ所でつくって持ってくる方が簡単なんですが、学校独自で給食室があって、近所のおばちゃんが地元で採れる野菜をそこで料理して、という。それも在り方としてはいいじゃないですか。各学校がお互いのメニューを競い合って、「○○小学校はものすごく給食がおいしい」とか。
児玉 なおかつ、雇用もつくり出せますしね。
<プロフィール>
佐藤 俊郎(さとう・としろう)
1953年生まれ。九州芸術工科大学、UCLA(カリフォルニア大学)修士課程修了。アメリカで12年の建築・都市計画の実務を経て、92年に帰国。(株)環境デザイン機構を設立し、現在に至る。そのほか、NPO FUKUOKAデザインリーグ副理事長、福岡デザイン専門学校理事なども務める。
<プロフィール>
児玉 崇(こだま・たかし)
1978年生まれ。福岡県糸島市高田(旧前原市)出身。国際基督教大学(ICU)教養学部卒業。証券会社勤務、調査会社勤務を経て、2010年に東京都中央区から糸島市へUターン定住。現在、合同会社伊都システムズの代表社員。
※記事へのご意見はこちら