年の瀬も迫った11月中旬の中洲。急な冷え込みに加えて、あいにくの雨だったが、人の往来はいつも通り。取り締りで、あまりしつこい客引きは見られなくなっているものの、最近になって「新顔」が増えてきている様子。不断の努力がなければ、いたちごっこからの脱却は難しいようだ。
アベノミクスの影響か、かつてのバブルを彷彿とさせる派手な店も増えてきた。先日調査に赴いた居酒屋は、女性スタッフ全員が水着。店内に流れる昭和のヒットソングのせいもあってか、「宵越しの金は持たない」とパーッと使っていた頃を思い出させてくれた。ただし、内装や料理で削った分を人件費に回している様子。水着の人からは、お得？なセットメニューがやたらとおねだりされるが、メニューの写真があまりにも暗く、「味に期待しないで下さい」と言われている感じ。実際、味もイマイチ、ラインナップは油物ばかりで、遠目でも広さがわかる厨房には巨大な電子レンジがあるのでは、と勘ぐりたくなる。
いろんな意味で胸焼けし、大人しく家に帰ろうかと考えていると、知り合いの店長から、「カラフトの狂犬」が出没したとの連絡が入った。酒癖が悪く、酔うと客に絡み、ほかのスタッフと喧嘩をする問題児。すでに中洲でいくつかの店をクビになり、いつしか「狂犬」の異名を持つようになったロシア人女性。見た目とのギャップが激しいことから、酒の肴として話題に上ることがある伝説の女である。近頃は、東京、名古屋、大阪を転々としているといわれていたが...。
出没ポイントの店に入ると、金髪で細身の女性がいた。今のところ、まだ"仕事をしている"ようだ。店長に聞くと、「酒癖が悪いという自覚があるそうなので、アルコールを少し控えています」とのこと。まだ被害者が出ておらず、少し安心したが、突如、付いていた客がついだビールを一気飲みするや、暴走が始まった。
泣いて、笑って、歌って踊って、なぜかキレる。カラオケで客の歌が気に食わないと、リモコンで演奏をストップし、下ネタを連発。どうやら日本の文化が好きなようで、現在、九州場所が行なわれている大相撲の真似事も披露。これまでの失敗体験からか、店に入りかけて帰った客に、「私のせい？」と言って号泣する。そして、「シャチョーさん（店長）が私をクビにするからぁ！」と、勝手にやけ酒モードに入り、客に絡んでいた。
今回、「狂犬」たる所以を一部始終見せつけられたわけであるが、ここまで行き過ぎているとマニアには逆にウケたりもする。上手にいなしていた店長は、「猛獣使いじゃないと務まりませんね」とポツリ。
長丘 萬月 （ながおか まんげつ）
福岡県生まれ。海上自衛隊、雑誌編集業を経て2009年フリーに転身。危険をいとわず、体を張った取材で蓄積したデータをもとに、働くお父さんたちの「歓楽街の安全・安心な歩き方」をサポート。これまで国内・海外問わず、年間400人以上、10年間で4,000人の風俗関係者を『取材』。現在は、ホーム・タウンである中洲に"ほぼ毎日"出没している。
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