天安門車両突入テロから数日が経った北京を取材した。中国では異例のテロ発生、さぞかし厳戒態勢の下にあるかと思いきや、現実は「想像」とは若干違う。テロの前後で変化したことといえば、天安門周辺の「公安(警察)」「特警(SWAT/対テロ特殊部隊)」の車両が増え、天安門の敷地に入る前に、仮設の出入口が設けられていることぐらい。出入口前には、往来する観光客を見張る数人の警察官。無作為に選び、カバンを開けさせ荷物をざっと見て、身分証やパスポートを確認する。だが、適当な手荷物検査で、とやかく言われることもない。一見、物騒に見えるが、警察官も「観光客が重大案件を起こすはずが無い」とタカをくくっているようだ。
北京の一般市民からもテロ事件を受けての緊迫した様子は感じない。テロを起こした犯人はウイグル族とされているが、北京一般社会において、ウイグル族と漢民族が生活や仕事等で接点を持っているケースは少ない。中国には55の民族がおり、92%が漢民族。基本的に漢民族中心の社会ができており、「ウイグル族そのものと接した事がない」という中国人が多い。今回の案件は、中国国内では現場の映像を使わずに報道され、事件から数日経っても報道はあるものの「字幕のみ」での放送パターンが基本。中国国内で放送されるNHKニュースも、事件報道の部分だけは画面に黒みを入れ音声をカットするなど「妨害」が加えられている。
事件自体に果たしてウイグル族が関与しているのかさえも、明確でなく真相は闇の中。しかし、報道も少ないため、中国人は、「事件の真相を知りたい」とはそれほど思っていない。だから、北京中心部で起こった事件にも関わらず、北京人の中に「対岸の火事」のような雰囲気が出ているのだ。
中国における事件の解決は「真相究明」ではなく、「時間経過による記憶の風化」が基本。日本のマスコミは、物事に「白黒」つけたがる傾向にあるが、中国では、「曖昧なまま棚上げし、そのうち、なんとなく消えている」という収束のさせ方が通常だ。天安門車両突入に関して「テロ反対」と、高官や警察が市民に呼びかけることもない。過剰な厳戒態勢を敷くことで、逆に市民を「何事か!?」と刺激するより、通常より若干警備体制を厚くするくらいで、時間の経過とともに風化させようというのが、現在の状況である。
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