アジアの最前線であるシンガポールから日系企業の最新動向を情報発信し、また企業事例や政策事例を紹介するセミナーなどを開催している統括・ハブ機能研究所。同研究所の運営や人材育成、海外事業のプロデュースを手がける同研究所の木島洋嗣氏に拠点シンガポールの今を聞いた。
――現在のシンガポール経済はどのような状況ですか。
木島洋嗣氏(以下、木島) シンガポールがここまで経済成長してしまうと、これ以上伸びる余地はあまりありません。日本は景気が悪くて、シンガポールは景気が良いからシンガポールに進出してくるという企業もありますが、今年アジアのなかで、都市別の成長率1位は東京なんです。今年は5%程度の成長率だと予測されています。それに対して、シンガポールは1%程度。おそらく福岡と同様か、福岡以下の成長に過ぎません。みなさん、よく勘違いしているのですが、シンガポールの景気はそれほど良くないのです。
――日本ではシンガポール経済は好調だと聞きますが。
木島 日本の方は、シンガポールの景気の上がり下がりのしくみをよく知りません。景気が良いというと、ホテルやレストランに人があふれ、デパートに買い物客が押し寄せ、タクシーがつかまりにくくなる。景気が悪い場合はお店がガラガラで、タクシーがすぐにつかまる。これが日本人の景気のイメージでしょう。
しかし、シンガポールは違います。レストランやホテルにいっぱい人が駆けつけても、景気は別なんです。日本の場合は80%が内需だと言われていますが、シンガポールは外需依存度が極めて高い。ですから、シンガポールの景気は海に浮かんだ、貨物船の数で判断できます。ホテルにどれだけ多くのお客さんがいても、それほど関係ありません。貨物船の数の増減がシンガポールの景気を左右します。つまり、街を見ても景気はわかりません。港を、海を見てください。
しかし、シンガポールに限らず、世界の主要都市も同様に外部依存度が高く作られています。ヒト・モノ・カネが世界中からやってくる。あるいは世界中へ出ていく。シンガポールはエアカーゴや貨物船での通過貨物量はダントツの世界1位です。東京には、年間平均428万TUのコンテナがやってきます。シンガポールは3,100万TUです。規模が全然違います。ですから、日本の物差しで景気の判断はできません。
――では、景気減退気味のシンガポールに注目が集まるのはなぜでしょうか。
木島 伸びしろの少ない、そして景気も下降気味のシンガポールに先がないのかというと、そうでもないのです。2つのことを考えなければなりません。
1つはシンガポール国内ではなく、ASEANを見るということ。ASEAN全体を見渡すと、人口6億人、ベトナムでは毎年150万人が誕生しています。インドネシアは現在人口が2億4,000万人で、今後も人口は増加、1人当たりのGDPも増加、2050年には日本を抜いて、世界第4位の経済大国になるという予測もあります。その頃、予測では日本は8位です。アメリカ、中国、インドのトップ3は変わらずですが、その後は変動が起き、4位にインドネシアが続きます。周辺国を見渡すと、タイ、マレーシア、カンボジアなど今後も成長が期待できます。周辺国の内需や新たな事業で取り込むというのが、シンガポールの今後の戦略の1つになります。
もう1つは、日本では大型のインフラ事業はそれほど望めないでしょうけれど、東南アジアではおびただしい数の工事が予定されています。ゼネコンはシンガポールからASEAN全域とインドへ進出していきます。膨大な建設需要が見込まれています。都市開発庁のギャラリーに行けば、その一端がわかります。シンガポールにおいて、今後どれだけの建設需要があるのか、一目でわかります。こんなに街が大きくなるのか、ということがわかると思います。たとえば、シンガポールのチャンギ国際空港は今後2倍に、港も現在の容量の2.5倍に拡張されます。マレーシア政府はシンガポールの対岸のマレーシア・イスカンダル地域にシンガポールと同じ都市を作り上げようという計画もあります。例を挙げればきりがありませんが、空港・港湾・高速道路・新幹線までも。建設業に関して言えば、圧倒的にアジアのマーケットの方が大きいのです。その市場を取りに来るというのは非常に重要ですし、日系大手ゼネコンはほとんどシンガポールにアジア本社を構えています。
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