「火鍋(ホーグオ)」とは「鍋料理」のことだが、中国には、白菜と豚肉を使った「酸白菜火鍋」という東北地方の鍋や辛さが特徴の「重慶火鍋」(重慶市)がある。
もともと、内陸で盆地の重慶は、湿度も高く夏は蒸し暑くなるため、夏バテ解消のために唐辛子や山椒などをふんだんに盛り込んだ辛い鍋が誕生したそうだ。現在は中国全土(台湾にまで)に「重慶火鍋」は広がり、国内の人気メニューの1つとなっている。
北京市朝陽区東柏街の「寛板凳老灶火鍋」も北京在住者で賑わう名店。予約をしても、さらに並ぶ必要がある。鍋は、辛いスープのみもあるが、辛くない白湯、辛いスープと白湯を境目で分け半々で食べる「鴛鴦火鍋」などから選べる。そこに、牛肉、豚肉、羊肉などの肉類、エビ団子、イカなどの海鮮、しいたけ、青菜などの野菜類から好きな具材をチョイス。タレも、鍋スープ自体が辛いので付ける必要はないが、逆に、辛さを薄めるため、ゴマや魚醤などのタレを好きに調合し、付けダレとして手元に置いておく。辛いスープのみで食べる場合、基本的に、鍋の中は3×3=9つの仕切り(「九宮格」と呼ぶ)で分けられる。大きな鍋だと、食材がどこに行ってしまったか鍋全体をかき回さないといけないためだ。9つの仕切りに、どこに何を入れるかの簡単なルールを作り、適当に入れていく。仕切りの中央が、最も火力が強い。
火が通った食材を口に運ぶと、しびれるような辛さが襲ってくるが、辛さだけではなく「ウマみ」も十分だ。そのウマさこそが、重慶火鍋の人気の秘密。山椒のピリピリした辛さも徐々にやってきて、時折食べるという北京人ですら「辣死了(ラースーラ/辛くて死にそうだ)」と汗をかきながら呟いている。甘い炭酸ジュースや王老吉(ワンラオジー/広東省生まれの漢方を使った甘い清涼飲料水)を飲みながら辛い鍋と格闘すれば、たらふく食べても、料金は1人当たり100元(約1,500円)程度。
中国人は、酒ではなく、四川料理や重慶火鍋など辛い食事をしながら、仕事の「打ち上げ」をすることがある。日本ならば、打ち上げの翌日、二日酔いで仕事が手につかないという経験もあるかもしれないが、中国では、辛い物を食べ過ぎて翌日に腹を壊し「欠勤」する中国人スタッフもいる。
辛いものでテンションを上げる。これも中国独特の食文化と言える。ただ、辛いものの「取り過ぎ」には注意したい。胃や消化器に過度な負担をかけるため、中国では時折、火鍋を食べている最中に吐血し病院に運ばれるという人もいるそうだ。
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