日本固有のラン藻類で、江戸時代から高級食材として珍重された川茸（和名：スイゼンジノリ）。現在は朝倉市の黄金川でしか自生できず、河川環境の変化により、収穫量は最盛期の10分の１にまで減少。加工販売業者の企業努力ではどうしようもできない限界を迎えている。寛政５年創業の加工販売業者、遠藤金川堂は10月10日に従業員９名を全員解雇し、その後の生き残り策を考えている。再三にわたる陳情により10月３日、朝倉市長が現地を視察。地域住民も視察に同行し、窮状を訴えた。最大の課題であった地下水の汲み上げ費用を年内は事実上、市が負担してくれることとなった。とはいえ、根本的な解決には至らず、残り２カ月で新たな解決策を見つけなければならない。そんななか、老舗を守ろうと声を上げた人物が現れた。（有）味の兵四郎の野見山正煇社長だ。「同じ食品を扱う企業として、このまま見過ごすわけにはいかない」と語る野見山氏に聞いた。

　――どのようにして川茸の窮状を知ったのですか。
　
　野見山正煇氏（以下、野見山）　川茸の遠藤金川堂が江戸時代から続く伝統のある養殖業者ということは以前から知っていました。ダム建設以降、黄金川の水量が減少し、水質が悪化していることを知り合いの米農家から聞きましたが、そのときはまだ大きな関心は持ってはいませんでした。９月、新聞報道で遠藤金川堂の廃業危機を知りました。「10月10日に従業員９名を全員解雇」この実状を知り、250年にもわたる伝統や文化が廃れることに危機感を持ちました。食に関わる人間として、ここだけにしかないものを守らないといけないという思いが強くなりました。まず遠藤金川堂の遠藤淳社長に連絡を入れ、状況を聞きました。地下水を汲み上げるポンプ代が１カ月に50万円ほどかかり、それが負担となっていることがわかりました。20年前からすでに市への環境改善の陳情が行なわれていることも知りました。そのやりとりのなかで、10月３日に朝倉市長が視察に来ることを知り、自分も参加しようと決めました。

　――黄金川の視察に参加して、いかがでしたか。

　野見山　当日、黄金川の上流から下流に向かって、歩きました。上流の水源からわずかに汲み上げられる地下水を目にし、過去の川幅の広さを知り、驚きました。今の何倍も豊かな川だったことを知り、徐々に足取りが重くなりました。「何かできることはないだろうか」と考えながら、現地視察を終えました。
市長の視察の様子からは事態改善に向けての思いがあまり感じられませんでしたが、市の職員の働きかけがポンプ稼動の継続につながったと後で聞きました。各メディアによる報道や地域住民の署名活動によって、実現できたと感じています。

　――遠藤金川堂の遠藤社長と会って、話をされたそうですが。

　野見山　スイゼンジノリから抽出されるサクランの有効性を生かすために食用以外でも展開してはどうかと話しました。たった１グラムで６リットルもの水を吸着するサクラン。この性質を生かして、介護用や乳幼児用のオムツなどが開発できれば販路は一気に広まると思いました。ただ遠藤社長には、伝統の味を守り、食用として一部でも残したいという気持ちがあることもわかりました。さらに経営の問題点も指摘しました。希少価値もあり、水の汲み上げポンプ代も考慮した上で販売したらどうかと伝えました。そして根本的に資金力がないことも大きな課題で、資金集めに様々な財団に寄付金の申請をしていると聞きましたが、採択まで時間がかかる上に、競争も激しいのが現状だそうです。

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