11月９日、福岡で、「帯津良一『場』の養生塾」塾頭として、がんと共に生きる人々たちへ希望と生きるエネルギーを伝え続ける帯津良一氏の「博多養生塾」が、ＮＰＯ法人日本ホリスティック医学協会福岡事務局の主催で開催された。講演「いのちのエネルギーを高める養生とは」と「呼吸法の実践」の２部構成で行なわれたなかで、「今後、年に１度は、貝原益軒の『養生訓』発祥の地である博多で養生塾を行なっていく」と語った帯津氏が、統合医療をどのように考え、人々に何を伝えようとしているのか紹介する。

＜駿台予備校での医者を志す若者たちとの出会い＞
　養生塾のほかに帯津氏が大事にしていることの１つに、駿台予備校市谷校舎で19年講演を続けてきたことがある。駿台予備校は東大、京大、医学部志望者が多く集まるところで、なかでも市谷校舎は医学部志望者が集まるところだ。
　そもそものきっかけは、駿台からの特別講演依頼だった。「医学部志願の予備校生たちに東洋医学について講演してほしい」という。「東洋医学なんて試験に出ないのに、なぜ」と訊くと、「彼らの頭を休めるために、年に２、３人外部の方に、彼らが興味を覚えるような演目の講演をお願いしているのです」と返答があった。日本医療は西洋医学が主。「これから医学部を受ける若者が東洋医学に興味を持つわけがない」と思ったが、とにかく引き受けて同校を訪れたところ、聴講生講義室は満席。通路や教壇、廊下にまで座り講義を心待ちにしていた。
　そのとき帯津氏は察したそうだ。「この若者たちは、東洋医学の講義を聞きに来たのではない。これから医者を目指すにあたって何を心得ればいいのかと悩み、大学に合格した後の目標が知りたくてここに来たのだ」と。そこで急遽、東洋医学について語るのは止め、彼らが求めていると思われる「これからの日本の医学」について語った。終了後は質問が後を絶たなかったという。

＜挫折を知る人こそ医療者であって欲しい＞
　当時を思い出し、「彼らは一度試験に落ちて挫折を体験しています。だからいいんですよ。悲しみを知る人間は患者と寄り添えます。情熱と共に謙虚さを備えているところがいいんです」と帯津氏は語る。
　帯津氏は、「人間の本質は悲しみにある」と考えている。いくら明るく元気に振舞っていても、自分の許容範囲を超えた現実に直面すれば、明るさはもろくも崩れ落ちる。そのように弱いものが人の本質だとは思えないのだ。
　一般的には、人間の根底にあるものは楽しさだと思っていた方が気楽だ。しかし、悲しみを本質だと認められる人間は、強く謙虚で、そう簡単なことではくじけない。「うまく受験戦争を切り抜けてこられた医学生が、良い医者になるわけではないですよ」と帯津氏は言う。人の死と隣り合わせ、命と向き合わなければならない医者は、悲しみを受け入れられる人であってほしい、と願わずにはいられない。

＜ホメオパシー批判を乗り越え講演が復活＞
　その後も毎年講演依頼があり、19年間続いた。しかし、突然依頼が途絶えた。理由は、2010年にホメオパシーに対する批判が世間を席巻したからだ。帯津氏も気功や漢方薬などのほか、補完医療の１つとしてホメオパシーを用いていた。そこで某大学から駿台予備校へ、「ホメオパシーを扱う医療者の講義を医学部志望の若者に聞かせるのは問題だ」と抗議があったのだ。駿台は事を荒立てるでもなく、講座を止めた。
　帯津氏は事後、この理由を知り、駿台の態度を次のように評価した。「ホメオパシーなどの補完・代替医療は、西洋医療とは違いますからバッシングを受けることが非常に多いものです。ですから2010年当時は、『ああ、また始まったな』という心境で、嵐が過ぎ去るのをじっと待っていました。だから駿台さんが、あっさりと引いたのは適切な態度だったと思いますよ」。
　そして今年依頼があり、10月初めに再び駿台予備校で講演した。日本医療の未来を担う若者たちの顔は今まで通り、とても良い顔をしていたという。

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