北京国際空港でも、北朝鮮のリアルに遭遇することがある。中国で開催された国際大会に出場した後の、北朝鮮のスポーツ選手団が空港内を搭乗客として普通に歩いているのだ。空港の大きな行き先掲示板フライトスケジュールには、行き先「平壌」の文字は見当たらない。なぜ掲示しないのかは明らかにされていないが、政治的な意図があるとされている。しかし、空港ラウンジ内の行き先には、ひっそりと「JS(高麗航空)平壌」の文字が表示されている。
赤い上下のジャージに身を包んだ選手団。一旦、搭乗待合場に荷物を置いたと思ったら、ゾロゾロと歩いてきて、空港内の熱湯を注げる場所(タンク)にやってきた。北京市内で購入したと思われる「辛拉麺(韓国製のインスタントラーメン)」のカップに、何とお湯を注いで持っていくではないか!母国に着く前に腹ごしらえをしておく必要があるのだろうか。この光景、日本人ならば切なさを感じずには入れない。「数時間後には北朝鮮に戻り、抑圧された生活が待っているのだろう...」と。
韓国人の中にも、北朝鮮人を可哀想と同情するケースは少なくない。ただし、それはもちろん全部ではなく、韓国人情報筋によると「北朝鮮人に同情するのは『若い人』が多い。北朝鮮との戦争を経験していない若者が情を差し伸べる。上は、朝鮮戦争で『北朝鮮兵』から攻撃を受けた世代だ。なかには『肉親を殺された』という人もいる。そういう人たちにとっては、北朝鮮の若者も『仇(かたき)の子供』となり、北朝鮮人を見るだけで怒りが沸き起こる。世代によって意識が違う」と指摘する。
朝鮮戦争は1950年から1953年。朝鮮半島の主権を巡り、北朝鮮が国境を越え侵攻したことで勃発した戦争だが、北朝鮮や中国の人民軍によって、韓国市民が殺されるケースも多発した。ある世代から上は、身近な形で、戦争と北朝鮮による「侵攻」を経験している。「北朝鮮人は恐ろしい」という感覚を持っている人もおり、それは、今になっても消え去ることはない。
1987年に起きた大韓航空機爆破事件では、犯人は北朝鮮の女性・金賢姫工作員だったが、若さと美しさもあり、韓国内では、金賢姫容疑者への同情論(特に若い男性から)も生まれた。しかし、北朝鮮に対する嫌悪感、恐怖心を持つ上の世代からは、「なぜ北朝鮮人に、ましてや重大犯罪の犯人に同情するんだ!」と反発も生まれた。
北朝鮮国民の生活に何か事件が勃発すると、その度に、韓国内世論は二分すると言う。空港で「食いだめ」をして帰国する北朝鮮の選手団...。彼女たち自身に罪はないのだろうが、その光景をどう受け取るのかは、各人が持つ「歴史的背景」によって大きく異なるのだ。
※記事へのご意見はこちら