大再編が進んだ欧米に比べて、1周か2周遅れの日本の製薬会社。業を煮やした安倍政権が再編を迫る異常事態だ。渦中の武田薬品はトップが交代する。それが意味するものは何か?
製薬の国内最大手、武田薬品工業は11月30日、世界6位の英製薬大手グラクソ・スミスクライン(GSK)のグループ会社社長クリストフ・ウェバー氏(47)を来年6月に社長兼最高執行責任者(COO)に迎えると発表した。長谷川閑史社長(67)は同6月に会長兼最高経営責任者(CEO)に就く。
ウェバー氏は来年4月までに武田薬品に入社し、COOに就任する。長谷川氏の後任のCEO候補である。6月の株主総会で代表取締役になり、その1年後に、長谷川氏からCEO職を譲り受ける予定だ。
ウェバー氏はフランス出身。1992年リヨン第1大学薬学・薬物動態学博士号取得。2003年クラクソ・スミスクライン(GSK)フランスの会長兼CEOなどを経て、11年1月からGSKのワクチン社社長兼バイオロジカル社CEOを務めている。
日本企業トップに外国人が就任することは、そう珍しいことではない。日産自動車のカルロス・ゴーン氏やソニーのハワード・ストリンガー氏などが有名だが、いずれも提携先やグループ会社からの起用。ライバル企業からのヘッドハンティングは極めて異例だ。
<新興国市場の開拓を狙った大型M&A>
武田薬品が異例な引き抜きに踏み切るのは、世界のメガファーマとのグローバル競争に落伍してしまうという危機感があるためだ。製薬業界では売上高1,000億円を超えるヒット薬を「ブロックバスター」と呼んでいる。最盛期に年4,000億円を売り上げていた武田薬品の糖尿病治療薬「アクトス」は、その典型だ。
だが、特許が切れて、後発医薬品(ジェネリック )が市場に出回ると、ブロックバスターは喰われてしまう。米国で特許が失効したアクトスは、13年3月期の売上が、前年の半分以下の1,229億円に急減した。武田薬品が3期連続の減益となった最大の理由だ。
長谷川社長がブロックバスター失効による業績の悪化を食い止めるために、大型M&A(合併・買収)を加速させたのは08年からだ。
08年4月に、米バイオテクノロジーのミレニアム・ファーマシューティカルズ社を8,900億円で買収。11年9月には1兆1,000億円という日本の製薬会社によるM&A史上最高となる巨額資金を投じてスイスの製薬会社ナイコメッド社を買収した。だが、買収負担が重く、まだ収益に寄与していない。
武田薬品は、それまで創薬メーカーを買収してきたが、ナイコメッド社のM&Aは従来とは違った。新興国に多くの販路を持つナイコメッド社の買収によって、未開拓の新興国市場に攻め入るのが狙いだ。先進国の市場が伸び悩むなか、武田薬品は新興国市場の開拓に力を入れたということだ。
今後、武田薬品の新薬を新興国に売っていくためには、ナイコメッド社の組織や営業を変えていかねばならない。そうしたグローバルマネジメントを仕切る人材は国内に育っていない。そこで、世界市場での経験が豊富な外国人経営者をスカウトした。
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<COMPANY INFORMATION>
武田薬品工業(株)
代 表:長谷川 閑史
所在地:大阪市中央区道修町4-1-1
設 立:1925年1月
資本金:636億円
売上高:(13/3連結)1兆5,572億6,700万円
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