先日、友人のバーを訪れると、スタッフが頭を抱えていた。「店先にある車のおかげで新規の客が激減した」という。ビルの1階にあるその店の前には、外でカフェを開く商用車(バン)が1台止まっている。さらに、ガールズバーの娘2人が車の横にとおせんぼする形で立つこともあり、友人の店に入る客は娘2人をかきわけて通るか、商用車の外を迂回しなければならない。
そもそも、なぜビルの敷地内に車があるのかと聞くと、場所代をビルのオーナーに払っているとのこと。「看板が通りから見えない」と、他の店からも苦情の声が上がっているという。「バンの持ち主はいい人だけど、さすがに店先で商売されるのはチョットきついですね」と、"思わぬ事態"に声を落とすスタッフ。そのビルのオーナーが意識しているかどうかは定かではないが、年末の書き入れ時を前に、少しでも売上をあげようと種々様々な準備を行なう店も少なくはない。ところが、今年の中洲は、例年に比べて、飲み屋側のモチベーションが上がっていない。
中洲のみならず福岡市の飲み屋に影響をおよぼすであろう"思わぬ事態"がもたらされた。11月末から12月頭にかけて、福岡市職員の不祥事が連発。3件のうち2件が酒絡みであった。
2012年5月、市職員の飲酒不祥事を受けて、高島宗一郎福岡市長が発した「自宅外禁酒令」で、市職員および関係者の飲み会が激減。閉店に追い込まれた居酒屋もあったという。綱紀粛正は当然のことだが、1万人と言われる市職員そして、その関係者が一斉に外で酒を飲まなくなったことで多くの店の売上に影響が出た。「酒を飲むことではなく、飲んだ後の行動が問題でしょ。『酒は飲んでも呑まれるな』を教えてあげなきゃ。飲んで羽目を外すのが好きな人にとっては、飲酒自体が不祥事かもしれないけどね!」とは、中洲事情通のママさん。彼女のほか飲み屋関係者の多くが、この市長施策を懐疑的に見ている。
今のところ、高島市長から「自宅外禁酒令」は発せられていないが、2012年5月の悪夢が、中洲関係者に去来している。例年、公務員のボーナス支給日である『12月10日』が近づくに連れ、中洲の人の往来は増えてくるものだが、その現象がいまだ見受けられない。発令はされていなくても、自粛ムードが漂っているのかもしれない。「二次会、三次会などでの団体予約が減っています。これではどうなることやら」と某スナック店長は気を揉む。
一方、カラオケの飲み歌い放題で安く済またいというニーズが増えており、実際にカラオケ店の出店も増えている。一概に市職員の不祥事のせいとは言い難い。しかしながら、高島禁酒令に強烈なインパクトがあったため、「こっそりと行なわれているのではないか」と疑う声があがっている。確実なのは、「なぜ、この時期に不祥事を起こすんだ! 最悪のタイミングだ」などと人知れず怒っている中洲っ子が、市職員にいることだ。福岡市役所から西日本一の歓楽街・中洲までは徒歩約5分の距離である。
長丘 萬月 (ながおか まんげつ)
福岡県生まれ。海上自衛隊、雑誌編集業を経て2009年フリーに転身。危険をいとわず、体を張った取材で蓄積したデータをもとに、働くお父さんたちの「歓楽街の安全・安心な歩き方」をサポート。これまで国内・海外問わず、年間400人以上、10年間で4,000人の風俗関係者を『取材』。現在は、ホーム・タウンである中洲に"ほぼ毎日"出没している。
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