鳥栖市は佐賀県のなかで途切れることなく人口増加を続けている唯一の都市だ。1954年に市制となって以来、毎年増加し、2012年12月には７万人を突破した。物流拠点「グリーン・ロジスティクス・パーク鳥栖」を始めとする雇用の場も多く、通勤者として市に流入する人々も多い。11年には九州初となるフランス発祥の音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ鳥栖」を開催し、サッカー日本代表戦が鳥栖スタジアムで初めて行なわれ今年は世界でもまれな九州国際重粒子線がん治療センターが設立された。橋本康志鳥栖市長と弊社の児玉直代表の対談をもとに鳥栖市成長の背景を検証する。

＜教育こそが、かけがえのない未来を創る＞
　鳥栖市民に話を聞くと、「今の鳥栖市の発展は江戸時代、対馬藩田代領として栄えた頃から、都市づくりを行なってきた歴史があるから」との声が印象に残る。なかでも幼少の頃から鳥栖に住むという70代男性の、「明治時代、地元の大地主であった八坂甚八さんが国鉄の鳥栖駅誘致活動を積極的に行なってくださいました。八坂さんがいなかったら、今の鳥栖はないでしょう」というのが代表的な意見だ。本来、計画になかった鳥栖駅設立を、八坂氏が私財を投げ打ってまで実現させたのは、ひとえに鳥栖地域の発展を考えてのことに他ならない。２、３年先でなく、数10年先のことを考えて事業を計画することの大切さを、鳥栖市の歴史は教えてくれる。橋本鳥栖市長も、目指すは10年後、20年後、そしてその後の鳥栖市の発展だ。

　今、鳥栖市は次世代に何を残そうとしているのか。この問いに関して橋本市長は「教育面に取り組むつもりです」と答える。「私は、地域の生き残りという問題の根底には、将来を担う子どもたちをどう育てるかというテーマがあると考えています。そこで、勉強であれ芸術であれ、子どもたちが最初に触れるものは最高のもの提供したいという思いを、『No.１プロジェクト』という理念に託し、小中学校の教育課程に、芝居や最先端の科学技術を学ぶ授業などを積極的に取り入れてきました」と橋本市長。子どもたちは環境から素直に学ぶ。ラ・フォル・ジュルネ鳥栖を行なった際も、学校で音楽に関する情報に触れる機会を増やすことで興味を抱き、開催時は子どもたちの方から大人たちに「音楽を聴きに行こうよ！」と呼びかけていたそうだ。そんな子どもたちに対し、「ぜひ日本語を豊かにする授業を取り入れていきたいと考えています」と橋本市長。実際に2015年の実現に向けて精力的に取り組んでいる。

＜九州で初めて小中学校へ教科「日本語」を導入＞
　橋本市長は、小中一貫教育の柱として教科「日本語」の導入を進めている。日本では東京都世田谷区、新潟県新発田市に次いで３番目。九州では初の導入となる。構想自体は３年ほど前からあり、2007年に世田谷区が最初に立ち上げた時はすぐに現地へ飛んだ。そして得られた情報をもとに、日本文化の理解や豊かな表現力、感受性を養う鳥栖市独自のカリキュラムを作成。内容としてことわざなどの「言語」、神話や俳句、短歌などの「伝統的言語文化」、カルタ遊びや能楽、鳥栖市や佐賀県の文化などの「伝統文化」、あいさつなどの「礼儀作法」の４分野。「今年、やっと教科書を作る段階まで来ることができました」と橋本市長は顔をほころばせる。14年に、２小学校と１中学校で先行実施しながら教諭育成を行ない、15年から本格的に開始させる予定だ。

　グローバル社会と言われる今、日本人は日本人としての価値観をしっかりと持つ必要がある。そのためにはまず、幼少の頃から日本語という言語をしっかりと学び、日本人としての軸をしっかり己の身のうちに持つことが大切だ、と橋本市長は考える。日本を、そして地域の文化をしっかりと学んだ子どもたちは、未来の鳥栖市をどのように築いてくれるのか。文化を教育に落とし込み、それによって育った子どもたちがゆくゆくは新しい鳥栖市を創る。たとえ鳥栖市を離れたとしても、故郷で学んだことを種として撒いてくれるだろう。それも鳥栖市の「情報発信」である。

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