交通渋滞の緩和や環境問題に配慮し、北京市政府が2012年6月に導入した「公共レンタル自転車」(北京市公共自行車)。北京市内の主要な地下鉄駅に数十台単位で設置しているが、記者は、自転車を利用している人たちの姿を見たことがない。北京メディア関係者や知人に聞いても、そういう自転車が「存在する」ことさえ知らなかった。
地下鉄駅周辺などで借りて、返却できるシステムで、自転車は赤と白の目立つ色合い。使用料金は1時間以内が無料、それを超えると、1時間1元(約15円)だ。市内の地下鉄の値段が2元(約30円)なので、まずまずの値段と言える。では、市民や観光客に浸透しているか?というと、現状はそうではない。町中で紅白の派手な色合いの自転車に乗る人を見ることはなく、実際、ステーション(置場)には「使用されてない待機自転車」が並んでいる。
レンタル手続きの端末を見ると、事前登録の特別なカードが必要で、そのカードがどこで入手できるか、誰に聞けばよいのかも明記されておらず、観光客に便利とも言えない。ある北京在住中国人は「そういうシステムを導入したところで、いつ使うのか?北京は車社会で、自転車は危なくて、タクシーや地下鉄に乗って行けるところにわざわざ自転車で行かない」と冷ややか。
以前は「中国は自転車」というイメージがあり、数十年前の映像でも自転車が密集する北京の光景も映し出されていたが、今は昔。北京の生活圏は拡大し、都心と生活圏の「距離」は広がった。地下鉄も次々と路線が増えて、居住空間から都心にある職場に向かうのも、以前は数キロだったものが、10キロ20キロと拡大しているので、自転車での移動は無理な範囲になってきたのだ。「生活圏と都心が距離的にも程よい」福岡とはまるで違う。また、市内に出てきて、地下鉄駅からレンタル自転車に乗っても、それを「盗まれる」可能性もある。「公共の物で鍵がある」とは言え、町中に自転車を駐輪し用件を済ませるというのも中国ではリスクが大きい。
ましてや冬場は極寒の北京、氷点下にもなる寒い時期に、外で自転車を借りてまで乗らない。日本なら「健康志向」で通勤通学に自転車を利用するという発想も生まれるだろうが、中国では生活の中に「健康的習慣」を取り入れようという発想は少ない。取り入れたところで、大気汚染の北京で、かなりの呼吸量が必要となる自転車に誰が乗りたがるだろうか・・・。
北京市政府の発表によると、自転車はまず2012年6月に2,000台導入、現在は2万5,000台に増加、今後も数は増やしていくとのことだが、北京の現実とはかけ離れたシステムを強化したところで、街に「使われない待機自転車」が増えるだけだ。
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