中央保育園移転問題で現・移転予定地に反対する保護者が、福岡市長リコール市民の会を設立し、9日から7万人の賛同者を目標にその募集を開始した。目標達成後、正式に福岡市選挙管理委員会(以下、市選管)に届け出て、署名活動をスタート。2カ月間で約24.7万人を超える有効署名を集めた上で市選管へ解職請求を行ない、その後、市長解職の賛否を問う住民投票が実施される。リコール署名活動が行なわれるのは福岡市では初。政令市長のリコールは全国でも初。なお、政令市においては、2010年に行なわれた名古屋市議会リコールが初の事例だ。
リコールは、地方自治法第76条などで定められた有権者の権利であるが、人口の多い都市では数十万の署名を短期間で集めなければならず、「非常に高いハードル」と言える。リコールが成立した名古屋市議会のケースでは、当時の署名期間が「市町村1カ月」となっており、「事実上不可能」とさえ言われた。結局、名古屋市議会リコールの後、人口が多い自治体における必要署名数と政令市の署名期間が見直された。
期間以外にもリコール成立までの道のりには、さまざまな障壁が待ち受けている。1つは、ほとんどの有権者が未経験という状況。筆者は実際に名古屋市議会リコールを現地取材したが、議会解散に賛同する市民から、「署名をするのは案内ハガキが届いてからだと思っていた」、「署名が必要との認識がなく、住民投票の実施を待っていた」といった声が聞かれた。さらに政令市の場合、「行政区ごとに署名簿を作り、区別に署名を集めなければならない」というきまりがある。住民票の住所と異なる区に署名したものはすべて無効となってしまうのだ。この点についても、名古屋市議会リコールでは周知徹底に苦労していた。
署名活動は、代表請求人と代表請求人の委任を受けた受任者によって行なわれる。名古屋市では、各駅前に受任者が署名を呼びかけ、人が集まる中心部には、テントを建てて全区の署名簿を設置。遊撃隊として受任者がそれぞれの行政区で署名を集めて回った。その主力は、就労者よりも平日自由に動ける高齢者や学生。名古屋市におけるリコール成立は、旗振り役であった河村たかし名古屋市長の発信力で、中心となって動いた多数の市民団体、そして幅広い年代にリコール運動が広がったことが要因であった。
2010年11月14日投開票の福岡市長選で、高島市長は20万9,532票を獲得。投票率は43.67%で27万7,001人が他の候補者に投票した。高島市長のリコールにおいて、約24.7万以上の賛同署名を集めることは数字的には決して不可能ではないように思えるが、前述の通り、「署名期間」と「複雑な制度」がかなり困難なものにしている。2カ月で24.7万は、単純計算で1日平均約4,000人の署名を集めなければならない。ある意味、選挙で当選するよりも遥かに難しいと言えるリコール制度。困難な試練に立ち向かうほど、市民の高島市長への不信感(怒り)が強いと言うことができる。
▼関連リンク
・大都市の民意は届かない?~名古屋で浮き彫りになったリコール制度の問題点
・福岡市長リコール市民の会HP
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