12月8日福岡市で開かれた原子力市民委員会の意見交換会では、原子力市民委員会が脱原子力政策大綱策定をめざして、10月に発表した中間報告について、吉岡斉座長代理(九州大副学長)らが詳しく説明した。
福島原発の被害の全容と「人間の復興」について報告した満田夏花氏(国際環境NGO FoE Japan理事)は、「多くの住民が自主的避難を強いられたが、損害賠償は1人一括40万円など"スズメの涙"で、ほとんど賠償がない」と述べ、損害賠償や支援制度の問題点を指摘した。福島市渡利地区などの放射能が放射線管理区域を10倍上回る高線量となりながら避難区域に指定されず、伊達市小国地区では128世帯のうち94世帯が避難し、81世帯が帰還できないまま賠償は打ち切られたと、現行支援制度の不十分さを示した。
被災者らの運動で成立された「子ども被災者支援法」の基本方針について、理念が骨抜きになり、支援対象地域が福島県内33市町村に限定され、施策内容も被災者・避難者の抱える問題点をカバーするものではないと批判。「中間報告では、被曝を避ける権利を保障し、生活再建支援を損害賠償と区別して実施・拡充することなどを提言している」と述べ、「政府は早期帰還に舵を切っているが、帰還を急がせるべきではない」と訴えた。
放射性廃棄物の処理・処分について、吉岡斉座長代理が報告。「核のゴミ(放射性廃棄物)の問題は、脱原発を遅らすとしても、最重要問題であることは間違いない。日本の原発を一部再稼働したとしても、大部分は廃炉される」と強調。「放射性物質の後始末は、脱原発をやる我々自身の痛みを伴わざるを得ない深刻な問題だ」と指摘した。
後始末の急所として、使用済み核燃料の安全な管理、福島原発事故炉の処理と自己廃棄物の処理の2つを挙げ、高40メートルにある燃料プールに貯蔵する方式を改め、地上に乾式貯蔵するか地上の燃料プールに速やかに移動すべきだと述べた。核燃料再処理を行なわず、六ヶ所再処理工場(青森県)にある放射衛廃棄物については、暫定貯蔵し、負担の公平の原則から移管先を見つけるべきだと提案した。
原発ゼロ社会を実現する行程について、松原弘直氏(環境エネルギー政策研究所主席研究員)が「国民の合意形成プロセスが重要だ」と述べ、国レベル、自治体レベル、市民レベル、業界・産業界レベルでそれぞれの合意プロセスが重要と指摘した。エネルギー基本計画の見直し、電気事業法の改正、原子力委員会の見直し、行政組織の改革などそれぞれの提案内容を説明。原子力損害賠償法の改正では、「被災者保護を優先すべきだと提言しようと考えている」と述べた。
「大事なのは、ビジョン、何をめざすかどうかの共有だ。ビジョンを共有できれば、原発ゼロは実現できる」として、「自然エネルギーは、誰でも参加できるものになりつつある。ステークホルダー(利害関係者)、関係者になって、脱原発を訴えていくのも(合意形成の)1つの方法だ」と提案した。
原子力規制はどうあるべきかについて説明した滝谷紘一氏(元原子力技術者、元原子力安全委員会事務局)は、原発の新規制基準の問題点と中間報告の提案内容を報告。「立地評価を外し、住民の被爆制限を撤廃した」、「1つの機器の故障しか考えていない。多重故障の想定を盛り込むよう抜本改正が必要」、「原子力災害対策指針の緊急時防護措置を準備する区域(UPZ)30キロメートル圏内の自治体を原発立地・再稼働の同意を求める自治体にすべきだ」などと述べた。
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