3年3カ月の民主党政権から、安倍晋三総理のもと自民党政権が復活して間もなく1年が経過しようとしている。「日本を取り戻す」というキャッチフレーズを掲げ、アベノミクスと呼ばれる経済政策を打ち出しているが、いまだ地方経済に回復の流れは見えてこない。支持率は依然高いとはいえ、当初の期待から、取り残された地方から批判の声があがりつつある。実態は首都東京(とその周辺都市)だけが一人勝ちの様相だ。勝ち組東京の実情はどうなのか11月20日から22日まで東京にて取材したものを報告する。
永田町にある議員会館の周囲では、いたるところに周囲ににらみを利かした警察官の姿や機動隊の車両をみることができる。首相官邸や国会議事堂、そして衆議院第1・第2、参議院議員会館などがあり、中央省庁のある霞が関からも近い。首都東京のなかでも特別なエリアなのだ。開会中の国会では、特定秘密保護法案の審議が行なわれており、議員会館前では、法案に反対するグループが座り込みを行い、拡声器を使って法案反対の演説を繰り返していた。反対運動ばかりではなく、地方から来た地方自治体の首長や業界団体の代表者も陳情に訪れる。永田町にいると地方にいてはわからない政治の独特の空気を肌に感じる。
<地震大国トルコに原発を売る安倍総理はおかしい>
21日夜、永田町に近いグランドアーク半蔵門で開催された保守系言論誌「月刊日本」の創刊200号・叱咤激励する会が開催された。記者は、発起人の一人である稲村公望氏の誘いを受け参加した。同誌は、NET-IBに連載されている植草一秀氏や藤井厳喜氏、浜田和幸氏も連載しており、日本の自立を目指す主張を展開している。
稲村氏は、鹿児島県徳之島生まれで、福岡県・八女郵便局長、日本郵便公社常務理事、元総務省大臣官房審議官を歴任。小泉政権時の郵政民営化に反対して職を追われたが、民主党政権下で日本郵便副会長として復職。現在、日本郵便常任顧問、中央大学大学院客員教授を務めている。同誌にもたびたび論考を寄稿し、小泉・竹中路線を激しく批判している。
参加者は、200名を超え、稲村氏や藤井厳喜氏などのほか、政治家では、伊吹文明衆議院議長、城内実前外務政務官や鈴木宗男前衆議院議員、亀井静香元金融担当大臣、民主党の松原仁元国家公安委員長など与野党から参加があった。
同誌の思想から考えて、安倍政権称賛の発言が相次ぐと思いきや、自民党出身である伊吹文明衆議院議長からは、政権が進める新自由主義批判が飛び出した。
さらに驚いたのが、亀井静香元金融担当大臣の次の発言だ。
「秘密保護法案は、公安警察の中枢にいた私(亀井氏は元警察官僚)だからこそ問題が多いことがわかる」と懸念を表明。「アメリカは、広島への原爆投下後、被爆者の治療をせず、ABCC(原爆傷害調査委員会)が被ばく効果のデータ収集だけした」と批判。「地震大国のトルコに原発を売りにゆくとは、首相はちょっとおかしくなっている」とまで言ってのけた。
亀井氏は元自民党政調会長で、小泉郵政民営化に自民党を離党し、国民新党を結成。昨年の総選挙では、反TPP、脱原発、消費税増税凍結を掲げ、その後、みどりの風に参加した。地方を無視し、グローバル大企業だけが儲かる政策を推し進める安倍政権こそ、国益を毀損しているとの声は、他の発起人や出席者からも聞かれた。
安倍政権が掲げる「日本を取り戻す」、「美しい国」。この言葉自体に反対する人はあまりいない。だが、現実をみると、2年以上が経過した東日本大震災の復興は10万人近い被災者がいまだ仮設住宅で生活している。安倍総理はIOC総会でのプレゼンで福島第一原発の汚染水の影響を「完全にコントロールできている」と発言したが、東京電力の広瀬社長が福島県民に刑事告訴されるなど厳しい批判を受けている。
我が国の美しい国土が放射能に汚染され、地震によって生活が根底から破壊された国民が多数いるという現実は、東京オリンピック決定で忘却されようとしている。おまけに、国境を越えてマネーあさりをする国際金融資本の利益にしかならないTPP交渉参加、景気回復に逆行すると総理自らが懸念していた消費税増税を来年4月から強行することを決めるなど、とても"美しい国"を守るとは思えない。
<長距離バスで広い国土を実感>
東京からの帰りは、飛行機ではなく新宿から西鉄(西日本鉄道)が一日往復一便を運航している夜行バス、「はかた号」に乗ることにした。夜9時に京王バスターミナルを出発すると福岡までの間、夜間走行がほとんどだが、縦横に長い日本を実感することができる。福岡―東京間の長距離バスの多くは、旅行代理店が貸切バスを借り上げて都市間の人員輸送を行なうツアーバス(募集型企画旅行商品)という形で運行されていたが、関越自動車道で起きた事故を契機にツアーバスの規制が強化され、バスの設備改修や停留所の設置などが義務付けられた。
キラキラ号を運行するオリオンバスツアーなど一部の会社は撤退したが、西鉄など数社は、現在も運行を続けている。「はかた号」の場合、各席ごとに遮光カーテンが引かれ、朝食が配られる朝8時過ぎまでぐっすり眠ることができる。寝返りもうてない席に12 時間の長旅のため帰宅後数日は肩や腰が痛くなるが、往復2万円で東京と福岡を行き来できるのは、お金はないが時間のある学生などにとってはメリットだろう。
今回の取材を通じて、わが国の首都で、国際都市でもある東京の二面性を見た。東京駅近くの丸の内・大手門周辺を歩いてみると、仕立ての良いスーツに身を包んだビジネスマンがせわしなく動き回り、若者が集まる池袋や原宿では、若年失業者の増加などありえないかのように、ブランド物を買っていく20代、30代の姿を多く見かけた。楽しそうに手をつないで、彼氏に「あれ買って~」とねだり、歩くカップルも多い。
東京スカイツリーから一望した林立する高い高層ビルやにぎやかな繁華街、全国から試験を突破して集まった学生が学ぶ大学。東京は誰もが一度は住むことを憧れた街。
東京の人口は約1,300万人。2009年10月1日現在の国勢調査を基準値にして、毎月の入転居を住民基本台帳などでその増減を加えて推計したものだ。おおむね日本の人口の約1割が東京に集中していることになる。きらびやかな面がクローズアップされがちだが、新宿で見たような無宿者(ホームレス)の増加、非正規雇用による未婚者、貧困層の拡大など地方と共通の問題も見えてきた。「東京一人勝ち」に見えるものは実像なのか、それとも幻想なのだろうか。
≪ (中) |
※記事へのご意見はこちら