国営諫早湾干拓事業(長崎県)をめぐって、福岡高裁判決(確定)が命じた潮受け堤防排水門の常時開放(開門)について、国が履行期限の12月20日までに開門しないことがほぼ確実になった同16日、原告漁業者・弁護団と農水省幹部との意見交換会が長崎市のホテルであった。漁業者側は、「今まで何をやってきたのか。確定判決を国が守らないのは、憲政史上前代未聞の異常事態だ」と強く反発、開門を求めた。また、干拓地の農業者らが「開門しない」ことを求める仮処分を認めた長崎地裁の決定に対し、漁業者側は補助参加人として同日、決定取り消しを求めて長崎地裁に申立て(保全異議)をした。
<官僚ではなく、大臣・官邸の責任問題に>
意見交換会は、農水省側の吉村馨九州農政局長の挨拶で始まった。国が確定判決を履行できないことはほぼ確実。その緊迫感も反省も農水官僚幹部らにはまったくない。吉村局長は「現時点での私どもの状況について本省から説明あるが、忌憚のない意見をちょうだいしたい」と、まるで他人事。吉村局長の挨拶が終わると、漁業者の怒りの声があがった。
「それだけかよ。確定判決を守らないのに。謝れ!」。
意見交換会で、農水省の瀧戸淑章農地資源課長は「地元の理解がなければ開門はできないので、話し合いするしかない。ギリギリまで努力したい」と述べたものの、残る4日間の具体的努力の内容は何一つ説明しなかった。
原告漁業者側は「子供騙しだ」「農水省の結論は決まっている。開門しないだ」と反発。「確定判決を守れないなら、農水大臣が、履行できない事態に立ち至った経過と反省、どう改めて開門できるようにするのかの打開の方策を説明すべきだ」として、大臣による直接説明を求めた。また、一省庁レベルの問題ではなく首相官邸が責任を持って対応すべき問題だと、強く要請した。
<24日には間接強制申立てへ>
原告漁業者側は、確定判決に基づき、24日には間接強制を佐賀地裁に申し立てる方針だ。間接強制は、債務を履行しない義務者に対し、履行しなければその債務とは別に、裁判所が間接強制金を課す決定することによって、義務者に自発的な債務の履行を促すもの。
間接強制金が確定判決を守るよりも安い金額では、確定判決に従わないで間接強制金を支払って済ました方が得になる。それでは、「法の秩序」が維持できなくなる。したがって、5年間開門するための対策工事費総額が約1,700億円なので、年間300億円程度の間接強制金でなければ効果がないとみられる。
原告側弁護団によると、農水大臣が開門するための具体的方策をいつまでにどのようにやって開門するか示せば、間接強制を見送る意向だ。
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