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大さんのシニア・リポート~第16回 「孤食」から「共食」へ(後)
特別取材
2013年12月19日 07:00

 問題は「共食」である。家族を含む誰かと一緒に食事をする。その反対が「孤食」。独りで食べる。「孤食」に関しては、若年層にも高齢者にも問題が多い。世代に関係なく孤食には寂寥感が漂う。間違いなく食事の量や内容にも大きく影響するだろう。もしかしたら、楽しく食事をする場合と、寂しく食事をする場合とでは、栄養の吸収力に大きな差異が生じるのでは、と思ったりもする。

ある特別養護老人ホームでの孤食風景 共食はなぜ重要なのか。2002年、足立己幸・女子栄養大学名誉教授たちが「65歳からの食卓」(2008年同名で出版)と題して、様々な場所で調査した。
 その結果、「家族との共食頻度が高い高齢者は、低い人に比べて"食事内容の量、質両面の問題点が少ない。健康、食生活や生活、人間関係や生きがい・生活の質について、積極的な態度や良好な行動の人が多い。特に地域での社会活動へ参加している高齢者にこの傾向が強い"ことが明らかになっている」、「配食サービスは頻度多く"食情報を共有する"最良の場である。利用者にとっても食事を受け取るだけでは"孤食"につながる可能性が高いが、積極的な話しかけや会話は"共食行動"のチャンスを作る」(同)という。

 足立先生は「共食の質」を問題にする。「テレビを見ながらの食事が問題になってきたが、最近は携帯電話やメールを気にしながらの食事が"共食"を質的に低下させている」(同)。ある小学生のいる家族の場合、食卓に何と携帯電話が4台。当然メールを気にしながらの食事風景となる。ふたりだけの高齢者世帯でも、それぞれ携帯電話を"待機させた"食事例もあったという。
 "共食"とはいっても、それぞれの世界にこもる"孤食"といえるだろう。これでは"味わって"食べたり、"食事の内容を品評"しあったり、"話に花を咲かせたり"はできない。何を食べたのかさえ覚えていないだろう。「同じ空間を共にする食事」を"共食"とは呼べない事例だ。

『65歳からの食卓』(足立己幸・他) 高齢者のみの世帯は増加の一途をたどるばかりだ。内閣府の調査によると、2025年には1,267万世帯と、05年比5割増し。東京23区の中心部でも独り暮らし比率がすでに同年比4割増しである。
 当然"孤食"も急増する。「週刊東洋経済」(2012年9月8日号)は「近くにスーパーがない」「重い荷物が持てない」「面倒くさい」という理由から、「朝は食パン一枚、昼はイモ一つ。・・・そんな食生活の結果、70歳以上の4人に1人が新型の栄養失調に陥っていると指摘される」と報告している。当然生鮮食品の摂取が困難となる。こういう人たちが生活するエリアを「フードデザート(食の砂漠)」という。"食の砂漠"と"新型栄養失調"とは見事にリンクする。

 熊谷修・人間総合科学大学教授は、「年を取ると、骨格と筋肉が衰えるが、この筋骨格系はタンパク質や水分を貯蔵するストレージ(倉庫)の役割を果たしている。そのため、老化が進むとタンパク質や水、脂(コレステロール)などの栄養素が体内から抜けていく」(同)として、だから高齢者は肉や脂肪分を摂ることが大切だと説く。
 熊谷教授の提唱する「新型栄養失調を予防する食生活指針10カ条」とは、「(1)欠食は絶対に避ける。(2)動物性タンパク質を十分に摂取する。(3)魚と肉の摂取は1対1程度の割合にする。(4)油脂類の摂取が不足しないよう注意する。(5)牛乳を1日200ml程度飲む。(6)食材の調理法や保存法をよく知る。(7)調味料を上手に使い、おいしく食べる。(8)自分で食品を購入して、食事を準備する。(9)会食の機会を積極的に作る。(10)余暇活動を取り入れた運動習慣を身に付ける」(同)である。指針の基本は「あれも食べよう」「これも食べよう」。高齢者の食事に関しては傾聴に十分値する提案といえる。

 "孤食"回避のひとつとして、"会食"を進める自治体が増えた。そのひとつ、東京都稲城市のNPO法人「支え合う会みのり」が会食を実施。「『野菜がすごく新鮮でおいしい。普段のお昼は残り物ばかりで、こんなに何品も食べられません。月に一度の楽しみです』。84歳の女性はほおを緩める」(同)。お喋りをしながらみんなで食事をすれば、消化も吸収率も大幅にアップする。栄養も身体の隅々まで行き渡るだろう。共食のメリットは非常に多い。

 講演会では、最後に、足立己幸先生が興味深い話で締めくくられた。
 「一代で"飢餓"(戦争による)と"飽食"(高度経済による)と"貧食"(孤食などによる)を経験したのは日本だけです。それだけ平均寿命が延びたということでしょうか」。目から鱗が落ちた。

(了)

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<プロフィール>
ooyamasi_p.jpg大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。


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