国営諫早湾干拓事業(長崎県)をめぐって、国が福岡高裁確定判決の命じた潮受け堤防排水門の開門義務を履行しなかった問題で、同高裁で勝訴した長崎、佐賀両県の原告漁業者49人が12月24日、佐賀地裁に、同義務を履行するまでの間、1日あたり1億円の支払いを求める間接強制を申し立てた。申し立て代理人弁護団によると、国が確定判決を守らないことによる間接強制申立は初めて。
間接強制は、債務を履行しない義務者に対し、その債務とは別に、裁判所が間接強制金(制裁金)を課すことによって、債務の履行を促すもの。佐賀地裁は、福岡高裁で開門を命じた判決が確定した訴訟(よみがえれ!有明訴訟)の1審が係属した裁判所。
申し立てにあたって、同訴訟弁護団は「開門と開門調査なくして、真の有明海再生・宝の海復活はありえない」とする声明を発表。「国が確定判決を守らないなどという三権分立と法治国家の原則を否定し去る憲政史上前代未聞の事態は、有明海のみならず、この国の民主主義の将来そのものを危うくするもの」と指摘した。
同日、漁業者らは佐賀市内で集会と記者会見を開いた。
佐賀県太良町の平方宣清さん(61)は「後継者が育たぬ寂しい漁村に落ち込んだ。月200万円の水揚げのあったクルマエビの漁獲高がゼロ、タイラギもゼロ、アサリもゼロ。(開門義務を果たさせるのに)なぜ間接強制までしなければいけないのか。情けなく、切ない。1日も早く開門させるための間接強制なので、国はしっかり受け止めてほしい」と訴えた。
長崎県島原市の吉田訓啓さん(49)は、「国は法を破っている。法は守るためではなく、破るためにあるのか」「開門の楽しみが消えて、また争い続けるのか。国は姑息だ」と批判。同県島原市の中田猶喜さん(63)は「私たちは有明海の再生を果たしたい。1日も早い開門しかない。そうでなければ高裁で勝訴した意味がない」と強調した。
福岡高裁の確定判決は、2010年12月、有明海4県の漁業者が開門を求めた訴訟(よみがえれ!有明訴訟)で、諫早湾閉め切りと漁業被害の因果関係を認定した上で、防災機能等の代替工事に必要な3年間の猶予期間後、排水門を5年間にわたり常時開放するよう国に命じたもの。一方、干拓地営農者や周辺(後背地)の農業者・住民らが、農業用水への支障や湛水被害などが生じるとして、開門差し止めを求めて申し立てた仮処分を長崎地裁が認める決定を11月12日に出した。
馬奈木昭雄弁護団長は、「この日はあってはならなかった」として、「農水官僚は最初から徹底抗戦するつもりだった。開門する気がない。官僚が自分たちを国民の上において、国民は黙って従えというのを国民は絶対に許してはならない。主権者国民が官僚をのさばらせてはいけない」と強調。国が開門しない言い訳として主張する「2つの法的義務」について、「義務は衝突していない。長崎地裁の仮処分決定は、被害が起きる開門をしてはならないと言った。国は対策工事をすれば被害は起きないと言っている。われわれは、農業者の方々がそれでも被害が出ると思っているなら、必要だと思っている対策工事を一緒になって国に要求したい。それを話し合いましょうと提案している。国の義務は1つだ。被害が起きない開門をしなければいけない、だ。国は、ハムレットのような猿芝居をすべきではない」と、国を批判した。
集会には、民主党の大串博志衆院議員が参加し、連帯の挨拶を述べ、「無理に無理を重ねた複雑骨折の結果だ」と、国の無策を批判。「国は、国会で、仮処分決定があっても、開門を命じた確定判決の履行は国の義務だと繰り返し答弁してきた。間接強制に『待ってくれ』と言う理屈は成り立たない」として、開門まで最後までたたかうと述べた。
今後、佐賀地裁が間接強制金額などを決定する。金額が、開門するよりも安くつけば、判決を守らせる効果が生じないので、3年間で約1,070億円かかる対策工事費よりも高い金額(年間300~400億円程度)でなければ効果がないとみられる。国は請求異議の訴えを起こすことができる。
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