発端は、昭和13（1938）年１月、職員の汚職事件に関連して福岡市長、久世庸夫（つねお）が引責辞任したことに始まる。
久世は旧制中学修猷館から一高、東大法学部を卒業し、大蔵省官僚などを経て大正８（1919）年から福岡市長を２期務めた。広田弘毅元首相の４年先輩にあたる。昭和３（1928）年２月の第16回衆議院選挙に立憲民政党から立候補するも落選。博多株式取引所理事長などを務めた後、昭和４年から再度福岡市長に就任し、２期務めていた。
返り咲きを狙う久世氏を降ろして新市長に選ばれたのは、渡辺与八郎氏を補佐して博多電気軌道を開業するなどした実業家の河内卯兵衛氏である。
ところが選挙の際の買収容疑が問題になり、河内、久世両氏に市議24名、運動員ら計34名が警察に逮捕される事態に陥った（当時は大正14年の普通選挙制度導入にともない、内務大臣による選択制が廃され、市会が市長を選出するようになっていた）。昭和13年８月10日、内務大臣末次信正は市制第26条により福岡市議会の解散を命じた。前日の８月９日、河内氏は在任わずか４カ月で退任する。
この年は福岡市発足50周年の記念すべき年だったが、市民は市会解散という空前の椿事に見舞われることとなった。
市政粛清を掲げた「愛市同盟」が８月31日に結成され、10月に行なわれた市会選挙に28名の候補者を立てた。その中に四島一二三の名前もあったのである。
定数44に対し立候補者103人という空前の大乱戦の中で、新人ながら一二三は574票を獲得し４位で当選する。愛市同盟の中ではトップだった。
ところが圧倒的な支持を集めた愛市同盟派は、市会の正副議長を独占しようとする。一二三は「議長は愛市同盟から出すのが当然だが、副議長は野党から出すべきだ」という持論を曲げず、信念に基づいて野党側の副議長を推薦。投票の結果２票差で野党議員が副議長に決まったのである。
与党内から噴出する批判に対し、一二三は11月24日、議長・副議長が決まると直ちに市議会議員の辞職願を提出、いさぎよく議会を去った。当選からわずか１カ月余り。病気や不祥事ならともかく、類を見ない「短命市議」だった。
昭和14年１月、前福岡県知事だった畑山四男美氏が第15第市長に就任。戦局の深刻化もあり市政混乱も収束する。
当時の福岡市は、昭和３年に千代町・堅粕町、同４年に原村・樋井川村、８年に姪浜町・席田村・三宅村などが合併し市勢を広げ人口は20万人を突破。長崎市を抜いて九州第一の都市となっていた。箱崎町、壱岐村、残島村、今宿村、今津村も昭和15年から17年にかけて次々に合併し、昭和17年には人口約35万人へと増加している。
「政治の世界は肌に合わない」。一二三はしみじみそう感じたことだろう。ただし、その後しばらくして、もう一度選挙にかかわることとなる。
昭和21（1946）年、戦後初めて行なわれた衆議院選挙に社会党から立候補した杉本勝次氏（翌年には初の公選福岡県知事となる）の選挙事務局長を引き受けたのである。戦後の混乱期であり杉本氏自身が自由党から出馬するか社会党から出馬するか最後まで迷ったというくらいだから、左右の政治的立場にとらわれるのは筋違いだろうが、それにしても柔軟というか大胆というか、一本気で反骨精神も垣間見える一二三ならではの政治スタンスである。
昭和13年に「国家総動員法」が制定され、軍国主義と統制経済が歩みを速めていった。銀行の統合とともに、無尽会社にも統合の圧力が強まっていく。
福岡無尽では北九州での地歩を固める目的もあって、昭和12年４月に小倉市を本社として設立された湧金無尽株式会社との合併を行なうべく水面下で交渉を進めていた。
だが昭和15年11月上旬、大蔵省から島崎無尽主査官（後の第一相互銀行社長）が来福しこれに反対意見をとなえ、まず博多無尽株式会社との合併を進めるよう強く勧奨する。
政治の上では大政翼賛会が発足し（昭和15年10月）、経済的にも「ぜいたく禁止令」が発令され（同７月）、「贅沢は敵だ！」「欲しがりません勝つまでは」などのスローガンが国民の生活を監視するかのように巷に溢れていた。そのなかには「聖戦だ 己れ殺して 国生かせ」というものもあった。
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