中国の防空識別圏の設定は、改めて日本人に中国の本質を学習させる教材となった。
<防空識別圏の正しい理解>
防空識別圏とは、各国空軍などが対領空侵犯措置を行なうために、自国の領空の外側の公海上などに設定している空域のことをいう。あくまでも各国が独自に定めた国内法であり、自国の軍(とくに空軍)に対する国内規定でしかない。防空識別圏を設定することによって、そこを通過する航空機に対し、報告義務を課すことはできないし、行動を制約することもできないのである。
また、防空識別圏そのものは、どこに設定しようが各国の自由であり、日本のように公表している国もあれば、公表していない国もある。それぞれの国が勝手に防空識別圏を設定しているのであり、中国が今回のように防空識別圏を設定すること自体は何ら問題ない。問題とすべきは、中国の海洋(海洋進出)上での動きを、今度は空域にも適用する動きを示していることだ。
<1992年に中国が公表した「領海法」>
中国は、1992年に南沙諸島、西沙諸島、尖閣諸島を中国領土とする領海法を制定している。翌年には全国人民代表者大会で、李鵬首相が「防御の対象に海洋権益」を含めると表明した。
97年には、海洋権益の維持を国防の範囲に明記した国防法が制定された。さらに2010年3月には島嶼保護法が制定された。この法律は無人島の管理や離島の環境保護などを規定している。島嶼とその周辺200海里の海底資源や漁業資源を確保する狙いがある。黄海、南シナ海、東シナ海のすべてが含まれており、尖閣諸島や南シナ海沿岸の5カ国が領有権を主張する南沙諸島なども含まれている。
中国が主権を行使出来る排他的経済水域(EEZ)は、国連海洋法条約の規定に基づいて計算すると、100万平方キロメートルしかない。ところが、その3倍の300万平方キロメートルの広大な海域を自国の支配する海だと主張するばかりか、島、海底資源、漁業資源もすべて自分のものだとして、領海法や島嶼保護法を制定し、中国の海洋覇権を正当化している。
中国は米海軍の西太平洋への接近を阻止し、領域への介入を拒否する戦略を採用しており、そのための戦力を急速に整備しつつあることは、最近の報道の通りであるが、米国は、中国のこのような動きを接近阻止・領域拒否(A2/AD= Aniti access/area Deniak )戦略と名付けている。
この流れに沿うような形で、他国領土、領海、公海に関係なく、中国海軍は有事の対米防衛ラインとして設定した九州―沖縄―フィリピン―ボルネオ島を結ぶ第1列島線と、伊豆諸島―小笠原諸島―グァム―サイパン―パプアニューギニアを結ぶ第2列島線の制海権を確保する海洋覇権の体制を確立しつつある。
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<プロフィール>
濱口 和久 (はまぐち かずひさ)
昭和43年熊本県菊池市生まれ。防衛大学校材料物性工学科卒業。陸上自衛隊、舛添政治経済研究所、民主党本部幹事長室副部長、栃木市首席政策監などを経て、国際地政学研究所研究員、日本政策研究センター研究員、日本文化チャンネル桜「防人の道 今日の自衛隊」キャスター、拓殖大学客員教授を務める。平成16年3月に竹島に本籍を移す。現在は、日本防災士機構認証研修機関の(株)防災士研修センター常務取締役。著書に、『思城居(おもしろい)』(東京コラボ)、『祖国を誇りに思う心』(ハーベスト出版)、「だれが日本の領土を守るのか?」(たちばな出版)。11月25日には、夕刊フジに連載中の企画をまとめた『探訪 日本の名城 上-戦国武将と出会う旅』(青林堂)を発売。公式HPはコチラ。
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