本格的な高齢化社会の到来とともに、深刻な社会問題となっている孤独死。各自治体で、高齢者の安全・安心な暮らしを担保するための施策が行なわれているが、予測不能な緊急事態や家族も含めたさまざまなニーズに対応するためのノウハウは、決して一朝一夕に築けるものではない。現在、九州北部エリアで各種自治体から高齢者の緊急通報サービスを請けている福岡安全センター(株)は、四半世紀以上かけて培った経験とノウハウで高い信頼を得ている総合福祉企業。高齢者福祉の課題の一端を探るため、九州北部における「緊急通報サービスのパイオニア」としてさらなるサービスの充実を図る同社を取材した。
<制度上の課題も・・・>
とくに人口の多い自治体で、看護師や介護士による「誤報選別」を行なう同社のサービスが注目されるようになった。93年頃から、政令市では初めて千葉市が安全センター(株)を利用開始。98年4月、福岡市の民間第1号として同社が緊急通報装置700台を受注した。ちなみに、東京の受信センターは福岡のバックアップを行なっており、2005年3月の福岡県西方沖地震では、東京で緊急通報の対応を行なったという。ちなみに、同社における緊急通報システムの2012年度の実績は、契約自治体全体で総件数27万7,090件、そのうち正報1,204件(救急車搬送1,077件、緊急訪問31件)、誤報6,477件であった。
福岡市では09年度に、緊急通報サービス、電話による安否確認サービス、夜間対応型訪問介護サービスをセットにした内容で「安心確保のための生活支援事業」として公募を実施。応募した6社のなかから同社が選定された。10年2月から福岡市中央区でモデル実施。11年4月から全市展開。12年度末の時点で、同市における利用者は5,628人(身体障害者193人を含む)となった。受注額は、12年度決算で1億5,243万5,000円。同社における同年度売上の約44%を占めるが、夜間対応型訪問介護サービスでは実働の利用者が70人と少なく、人件費面で運営が難しくなっている。
夜間対応型訪問介護サービスの利用者が少ないことの一因には、高齢者福祉における制度上の課題がある。介護保険が適用される夜間対応型訪問介護サービスは、点数が訪問の都度かかり、緊急通報器の設置も必要になるなどで合計の点数が割高になる。加えて、利用者には終末期の高齢者が多く、死亡による増減も激しい。実のところ、夜間の訪問介護を進んで行なう業者は少なく、福岡県では登録業者4社のうち2社が休止状態になっているという。
健康で幸せな暮らしを高齢者が送れるように、同社では緊急通報サービス以外の事業にも取り組んでいる。その1つは、福岡大学スポーツ科学部の田中宏暁教授とタイアップした健康づくりのための運動プログラム「にこにこステップ運動」の普及事業。久留米市では、NPO法人シニアネットワークと市健康福祉部長寿支援課と共同で行なった「久留米市にこにこステップ運動」が成功事例として、2012年3月29日に福岡県知事から表彰を受けた。田中教授の「にこにこステップ運動」と「スロージョギング」は、同社が12年4月に開所した「デイサービス にこにこセンター城南」でも導入されている。同所は、介護予防(寝たきり防止)を目的とした機能訓練特化型デイサービスを行なっている。
緊急通報サービスに特化し、競合不在のなか先行して受注を増やしてきた福岡安全センター(株)。各地で需要が増え、同業者も増えているが、同社は、これまでの実績とサービス内容の充実で対応していく方針。高齢者の生命に関わるデリケートな分野で、看護・介護のプロを配置した同社の存在感はますます増していくことと思われる。
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