2007年時点で、米国防総省議会報告は、中国の海洋覇権のスケジュールを次のように分析していた。
2000年までに中国本土沿岸海域の防衛体制を確立する。2010年までに第1次列島線内の制海権を確保する。そして2020年までに第2列島線の制海権を確保する。2040年までに米海軍による太平洋、インド洋の独占的支配を阻止。同時に、米海軍と対等に戦える海軍を建設する。
すでに中国本土沿岸海域の防衛体制は完了している。第1列島線内の制海権の確保に関しては2015年以降にずれ込む見込みだ。米国が分析しているように、2040年に中国の海洋覇権の計画が成就したときには、台湾は中国に呑み込まれ、日本のシーレーンは中国の脅威に常にさらされることになる。今回の中国の防空識別圏の設定は、中国の海洋戦略の延長線上にある動きであり、唐突に出てきたものではない。中国にしてみれば、予定通りの行動であり、同時に発表された公告の内容がすべてを物語っている。
<同時に発表された公告の内容が問題>
中国は防空識別圏の設定に合わせて、次のような内容の公告を発表した。「防空識別圏は中国国防省が管理する」とした上で「圏内を飛ぶ航空機は、中国国防省の指令に従わなければならない」とし、「指令を拒否したり、従わなかったりした航空機に対して中国軍は防御的緊急措置を講じる」と明記している。このことは何を意味するのか。中国の公告の内容は、防空識別圏に名を借りた空域の管轄権の主張であり、1992年の「領海法」の空域版とも言えるものだろう。
しかし、日本は中国の公告の内容を受け入れるわけにはいかない。公海上空の自由は国際法でも認められた各国の権利であるからだ。さらに言えば、中国が今回、防空識別圏の設定を尖閣諸島上空にまで拡大し、管轄権を主張する行為は、「尖閣諸島は中国の領土である」ということを既成事実するものであり、絶対に認めるわけにはいかないのである。
<安倍政権は防衛態勢の整備を急げ!>
安倍政権が防衛計画の大綱と中期防衛力整備計画をわずか3年で改定した。近隣(中国、北朝鮮)の脅威に毅然と対処するには、新たな防衛力整備が不可欠と判断したためだろう。「戦える自衛隊」への布石ともいえるものだ。
11月27日には、日本政府の外交・安全保障政策の司令塔となる「国家安全保障会議(日本版NSC)設置法案が成立。同法案の成立を受け、日本版NSCは12月4日に発足し、首相、官房長官、外相、防衛相からなる「4大臣会合」が始動した。
安倍政権は、不測の事態に備えて、さらなる防衛力の整備が必要となるが、来年は間違いなく、集団的自衛権の行使問題が政治日程にあがってくるだろう。そのときに安倍政権は一部のマスコミや一部の国民に迎合するべきではない。
国家戦略として正しい選択をしようとすれば、リーダー(首相)は一部国民やマスコミから悪魔、独裁者呼ばわりされるだろうが、それを実行するだけの決断力が備わっていなければならない。安倍首相には期待したい。
≪ (前) |
<プロフィール>
濱口 和久 (はまぐち かずひさ)
昭和43年熊本県菊池市生まれ。防衛大学校材料物性工学科卒業。陸上自衛隊、舛添政治経済研究所、民主党本部幹事長室副部長、栃木市首席政策監などを経て、国際地政学研究所研究員、日本政策研究センター研究員、日本文化チャンネル桜「防人の道 今日の自衛隊」キャスター、拓殖大学客員教授を務める。平成16年3月に竹島に本籍を移す。現在は、日本防災士機構認証研修機関の(株)防災士研修センター常務取締役。著書に、『思城居(おもしろい)』(東京コラボ)、『祖国を誇りに思う心』(ハーベスト出版)、「だれが日本の領土を守るのか?」(たちばな出版)。11月25日には、夕刊フジに連載中の企画をまとめた『探訪 日本の名城 上-戦国武将と出会う旅』(青林堂)を発売。公式HPはコチラ。
※記事へのご意見はこちら