「品格ある国家・日本」という言葉を使うことがよくあるが、小泉八雲は品格とは何かを日本人以上に理解していた外国人(その後、日本に帰化)かもしれない。
<外国人の目から見た日本の姿>
小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)はイザベラ・バード、アーネスト・フェノロサ、ブルーノ・タウト、アンドレ・マルローなどと並んで日本の本当の姿を海外に知らしめた外国人の1人だと言われている。
ハーンは1850年6月27日、ギリシャのレフカス島で、英国人の父とギリシャ人の母の間に生まれる。明治23(1890)年に来日し、島根県の松江尋常中学校(現在の松江北高等学校)に英語教師として赴任する。
来日前からハーンは日本に魅力を感じていた。特に英訳の『古事記』などを読んでいたため、神々の国・出雲地方の松江をこのうえなく気に入り、松江こそ真に古き良き日本の文化伝説が残っていると考え、ここを「神々の国の首都」と呼んでこよなく愛した。
この地で約1年半過ごすなか、松江で見た光景を次のように書き記している。
「彼等は手と顔を洗い、口をすすぐ。これは神式のお祈りをする前に人々が決まってする清めの手続きである。それから彼等は日の昇る方向に顔をむけて柏手を四たび打ち、続いて祈る。・・・人々はみな、お日様、光の女君であられる天照大神にご挨拶申し上げているのである。『こんにちさま。日の神様、今日も御機嫌麗しくあられませ。世の中を美しくなさいますお光り千万有難う存じまする』。たとえ口には出さずとも数えきれない人々の心がそんな祈りの言葉をささげているのを私は疑わない」
<日本を愛したハーンの生活>
ハーンは、西洋では失われた自然への畏敬、八百万(やおよろず)の神々への信仰が、日本では生きていることに驚き、心から共感し、日本の民話や伝説、怪談などを聞き集め、それを作品にまとめて、海外に紹介している。
また松江では、昔ながらの日本の家に住み、着物を着て、日本食を食べ、日本の習慣に親しんだ。日本女性と結婚するように勧められると、拒むことなく、明治24(1891)年、松江士族小泉湊の娘・小泉節子と結婚。その年の11月からは松江を離れ、第五高等学校(現在の熊本大学)の英語教師となる。
明治29(1996)年、45歳のときに東京帝国大学講師となり、このときから小泉八雲と名乗り、日本へ帰化する。小泉は夫人の姓であり、八雲は出雲の枕詞「八雲立つ」に因るとされている。
<ハーンが発見した日露戦争での日本人の強靭さ>
ハーンは、日露戦争の最中の明治37(1904)年9月に亡くなったが、絶筆となった『神国日本』の最終章で、「日本のこの度のまったく予期しなかった攻撃力発揮の背後に控えている精神力というものは、もちろん、過去のながい間の訓練のおかげであることはまったく確かである。・・・そしてすべてのあの天晴(あっぱ)れな勇気 ―― 生命を何とも思わないという意味ではなく、死者の位を上げてくれる天皇のご命令には一命を捧げようという念願を表わす勇気なのである」と書いている。
彼が感じた日露戦争における日本人の精神力、勇気の源泉は、天皇を中心とする忠誠心・団結心であり、それと結びついた日本人の宗教的伝統だと言っているのである。
そして、この宗教的伝統の核心は、祖先祭祀であり、神道であると。わが国では、死者の魂を神として祭り、家の先祖を祀る家族的祭祀、氏神を祀る社会的祭祀、国の祖先を祀る国家的祭祀が、古代から近代まで貫く宗教的伝統となっている。この祖先祭祀は、天皇を中心とする忠誠心・団結心と結びついている。そこに、ハーンは、日露戦争において発揮された日本人の強さ、優秀さの根源を見出したのである。
また、「日本の強さは、伝統的宗教の強さと同様に、物には現れていなくて、その民族の底に潜んでいる『民族の品格』にある」とも述べている。
つまり、ハーンは日本人の「民族の底に潜んでいる『民族の品格』」を深く感じ取っていたのである。それは古代から近代まで日本人の心底に保たれているものであり、明治日本の活力の源となっているものでもあった。
ハーンが追求し、作品の中に描こうとしたもの、それは民族の品格、つまりは「日本の品格」であり、日本人として生活するなかで、西洋社会が失ってしまった古き良きものを日本のなかに発見したのが、ハーンこと小泉八雲だったのである。
<プロフィール>
濱口 和久 (はまぐち かずひさ)
昭和43年熊本県菊池市生まれ。防衛大学校材料物性工学科卒業。陸上自衛隊、舛添政治経済研究所、民主党本部幹事長室副部長、栃木市首席政策監などを経て、国際地政学研究所研究員、日本政策研究センター研究員、日本文化チャンネル桜「防人の道 今日の自衛隊」キャスター、拓殖大学客員教授を務める。平成16年3月に竹島に本籍を移す。現在は、日本防災士機構認証研修機関の(株)防災士研修センター常務取締役。著書に、『思城居(おもしろい)』(東京コラボ)、『祖国を誇りに思う心』(ハーベスト出版)、「だれが日本の領土を守るのか?」(たちばな出版)。11月25日には、夕刊フジに連載中の企画をまとめた『探訪 日本の名城 上-戦国武将と出会う旅』(青林堂)を発売。公式HPはコチラ。
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