日本外務省のサイトで紹介されている、2013年5月の欧州委員会2013年春の「経済見通し」では、財政赤字(対GDP比)は2011年が欧州連合27カ国域内全体で、-4.4% から2014年には-3.2%に下がっていくと予測されているが、逆に、失業率は9.7% だったものが11.1%に上昇すると予想されている。これは緊縮予算が景気回復を遠ざけているという意味である。2012年のドイツとフランスの失業率を比較すると、ドイツが6.8%に対し、フランスは10.3%となっている。
総じてギリシャまで含めた南欧諸国が苦境にあるなか、ドイツはその割りを食っていないのが特徴的だ。いずれにせよ、これからわかることは、緊縮財政一辺倒のユーロ経済圏の政策では停滞から脱することができていない事を意味する。
しかも、日本同様、欧州諸国は高齢化が一段と進んでおり、福祉国家であるがゆえに大規模な公共工事に資金を割くよりも福祉政策にカネを回すので精一杯である。
今年はドイツとイタリアで総選挙があった。ドイツでは自由主義的なFDPが一議席も獲得できず連立から離脱し、メルケル首相の与党キリスト教民主同盟(CDU)はかつて連立を組んでいた社会民主党(SPD)との連立政権を今月になって発足させた。両党は最低賃金の引き上げなどで折り合ったものの、これはドイツ国内での話であり、他の域内諸国との格差が残ることには変わりはないだろう。
一方、イタリアでは緊縮財政に反対する既成政党に対する反対運動が組織されており、これがコメディアンのベッベ・グリッロの「5つ星運動」となったほか、最近では別の自発的な緊縮財政や増税政策に反対する農民を中心にする草の根運動(ピッチフォーク、Pitchfork:干し草用のすき運動)が起きている。
イタリア10年もの国債は2011年11月には金利7%まで急上昇して危機を迎えたが、その後、欧州中央銀行が米国にならって無制限の量的緩和政策であるLTROを打ち出したことにより、今は4%台と08年と同程度に落ち着きを見せている。要するにユーロ圏は実態としてはドイツが経済同盟の盟主であるのに、たてまえとしての欧州連合の間では各国の平等を打ち出している。ドイツと、欧州の団結を象徴するブリュッセルの欧州官僚の間で主導権争いが行なわれているわけだ。
先の外務省のサイトで、12年のドイツの主な貿易相手を地域別に見ると、輸出入共に欧州が全体の3分の2程度を占める。輸出は欧州(69%)、アジア(16%)、アメリカ(12%)、輸入は欧州(70%)、アジア(18%)、アメリカ(9%)の順)である。
また、欧州連合全体で国別の貿易傾向を見ていくと、次のようになる。輸出は米国(17.3%)、中国(8.5%)、永世中立国のスイス(7.9%)、ロシア(7.3%)、トルコ(4.5%)、日本(3.3%)、ノルウェー(3%)であり、輸入は中国(16.2%)、ロシア(11.9%)、米国(11.5%)、スイス(5.8%)、ノルウェー(5.6%)、日本(3.6%)、トルコ(2.7%)となっている。これを見る限り、欧州にとっての最大の輸出市場は米国市場であり、ついで中国となっている。
さらに、現在は、欧州連合諸国、特にユーロ圏で、再び2012年のような南欧の銀行危機が発生した時の迅速な対応策を確立するための「バンキング・ユニオン」(銀行同盟)の議論も行なわれているほか、19年に完全導入される銀行の新自己資本規制「バーゼルIII」の実施に対応するための銀行の資本不足を補うには704億ユーロ(950億ドル)が必要と言われている。欧州全体の銀行を対象に来年実施される資産価値の検査(いわゆるストレステスト)の結果を見極める必要もあり、銀行としてはこのバランスシートの問題を解決するまでは本格的に融資活動を行なうことができない。
現在、欧州にとって今一番必要なのは需要不足を補うことだ。それが内需であるにしろ、外需であるにしろともかく失業率を下げるには需要不足を何とかする必要がある。
日本と欧州の経済的な結びつきで言えば、日本と欧州の取引を見る場合には自動車市場を見るのが手っ取り早い。日産とルノー強い結びつきの関係を見ればわかるように、日・欧州の経済的な結びつきの最大の象徴は自動車であるからだ。12年、財務省・貿易統計によると、日本の輸出品目は、自動車、原料別製品、自動車の部分品がメインであり、日本の輸入は医薬品、自動車、有機化合物となっていることもそれを示す。
しかし、ルノー、BMW、フィアットなど多数の企業がひしめくことからわかるように、実際、欧州にとっても自動車産業は大きな雇用確保の材料だ。
日経新聞が報じているが、欧州自動車工業会(ACEA)によれば、11月の欧州主要18カ国の新車販売台数(乗用車)は、前年同月比1%増の91万600台だった。前年比プラスは3カ月連続だが、1~11月の累計販売は前年同期比3%減の1,067万2,900台で、通年では2年連続の1,200万台割れになっているという。この数字こそ、景気に薄日が指しているとはいえ、欧州経済は依然として、全体的に停滞していることの現れだ。
▼関連リンク
・外務省(欧州連合(EU) 概況)
・JETRO(インドネシア)
<プロフィール>
中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。
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