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SNSI中田安彦レポート

【2013年総括】欧州と結びつく中国を尻目にASEANと連携を強化する安倍外交(後)
SNSI中田安彦レポート
2013年12月31日 07:00

SNSI・副島国家戦略研究所 中田安彦

 そこで欧州にとっても重要になってくるのが、安倍首相が進めている東南アジアを含めたアジア太平洋地域での市場の奪い合いになるとみるべきだろう。ASEAN諸国と先んじて経済連携を進めている日本は、地理的にも同地域に近いことにより、欧州諸国よりは先に2015年に実現すると言われる経済統合の果実を得ることができる立場にある。

earth2.jpg しかし、そうはいっても欧州諸国も負けてはいない。その一例が今年行なわれたミャンマーの携帯電話市場をめぐる入札でノルウェーの企業が日本企業に競り勝ち、わが国関係者に衝撃を与えたことである。今年の6月に、ミャンマーの携帯電話事業への新規参入者を決める入札が行なわれたが、ノルウェーの企業がとカタールテレコムが事業免許を獲得したことが報じられた。KDDIなど日本関連の2陣営は落選したわけだ。安倍首相が東南アジア外交を一年目の主要テーマに掲げたのは、この地域を欧州企業には奪われたくないという意欲の現れだろう。要するに、日本企業は東南アジア諸国とは、地域大国の中国だけではなく、欧州、そして米国企業とも市場獲得で競り合う関係にある。

 そして、中国と欧州の経済的な結びつきは依然として大きい。中国は、欧州にとって、輸出市場では米国に次ぎ、輸入元では最大の相手国だ。欧州企業は中国にエアバスの旅客機を熱心に売り込んでいる。米国のボーイングと激しいシェア争いを展開中だ。更に言えば、欧州企業は中国との間で安全保障ビジネスでの結びつきを強めようとしていることに注目する必要がある。米国では議会を中心に中国の国有企業都の提携について警戒が強まり始めているが、欧州ではまだその警戒感は薄い。

 中国の李克強首相と欧州連合(EU)のファンロンパイ大統領、バローゾ欧州委員長は11月の下旬に、北京の人民大会堂で首脳会議を開いている。この際の議題になったのは、投資協定の締結に向けた交渉への合意だった。現在、人権問題を理由に、EUは中国への武器輸出や軍事転用可能な汎用品の輸出を禁じているが、今後も中国は強くこれを求めていくだろう。

 日本が海洋アジアを制覇しようとする一方で、中国に対しては欧州連合諸国が経済的な結びつきを強めようとしている。欧州諸国は数年前のユーロ危機の際に中国から資金援助を受けたことから更に中国との結びつきを深めていくだろう。中国も欧州企業が持っている技術が経済発展のためには必要としている。両地域は「大陸国同士」という点でも結びつきやすいともいえる。
そして、日本企業にとっての懸念は東南アジアの市場拡大競争において、中国企業と欧州企業が連携して大陸側から市場を取ろうと進出と攻勢をかけてくることだろう。ここで「陸の勢力」(欧州・中国)と「海の勢力」(日米ASEAN)がぶつかることになるかもしれない。

 注目したいのは安倍首相が外遊をしているなかで、ユーロ圏の「コアメンバー」であるドイツやフランス、イタリアには訪問していないということだ。対照的なのが韓国の朴槿恵大統領で、まるで安倍外交の裏返しのように、すでにフランスと英国、ベルギーを訪問している。
 俗に「地球儀外交」と言われる安倍外交のお膳立てをしているのは、谷内正太郎・国家安全保障局長だとも言われているが、安倍首相の外遊リストは海洋国家ないしは地政学的に言えばリムランド(北西ヨーロッパから中東、東南アジアに至るユーラシアの沿岸地帯)を中心に組み立てられている。
 安倍首相も英国にはサミットがあった関係で訪問しているが、その他は欧州といえば、ロシアとユーロ圏との中間に位置する東欧ばかりである。つまり、欧州は安倍外交に取って優先順位は低いということだ。安倍外交にとって優先順位は地政学的に中国と組ませたくない国々ということになる。
 
 ジェトロのデータによると、2012年の時点でASEANの有力国であるインドネシアは輸出相手では、欧州連合27カ国でも全体の9.5%でしかないのに対し、日本は15.9%、中国は11.4%となっている。
 一方でインドネシアがどの国から購入しているかという輸入相手においては、中国が抜きん出ており15.3%。日本は11.9%だがこれは欧州連合の7.4%よりはずっと高い。
 欧州諸国との間には特に大きな懸案もないことが理由なのだろうが、同時に日本の経済外交としては、東南アジア、とりわけ海洋アジア地域という市場をまず固めていきたいという意欲の現れなのだろう。
 周辺に巨大消費市場がない欧州圏と東南アジアという元気のいい大市場が育ち始めているアジア太平洋地域の存在感が目立つ。世界の「辺境地帯」になっているのは気づいてみれば欧州だった、ということになったわけだ。

 また、同時にアジア全体で見れば経済の中心の重心は、日本を含む北東アジアからシンガポールから南シナ海の東南アジア地域に向けて南下しているのであり、その意味では日本も「アジアの辺境」になりつつある。これが現実であり、500年続いた欧米中心の世界秩序がいまや大きく変貌していることの表れでもあるのだろう。

(了)

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▼関連リンク
・外務省(欧州連合(EU) 概況)
・JETRO(インドネシア)

<プロフィール>
中田 安彦 氏中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。


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